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物件取得

オーナーチェンジ物件の利回りは本当に実力か。現行賃料の盛りを見抜き、収益価格を引き直す3つの検証

·22 min read·著者:吉田 健人
オーナーチェンジ物件の利回りは本当に実力か。現行賃料の盛りを見抜き、収益価格を引き直す3つの検証

販売図面に「利回り6.2%、満室稼働中」とある。入居者が付いているのだから空室の心配はいらず、購入した翌月から家賃が入る。オーナーチェンジ物件(賃借人が入居したまま売買される収益物件)が初心者向けとされるのは、この「見えやすさ」ゆえです。

ところが私たち鑑定士が実際に評価に入ると、販売図面の利回りとその物件の本当の収益力との間に、無視できない差が見つかることがあります。原因の多くは物件そのものではなく、利回りの分子に置かれている「現行賃料」の作られ方にあります。厄介なのは、この差が購入時点では損として見えず、最初の退去が起きた瞬間に一度に表面化することです。

本コラムでは、オーナーチェンジ物件の価格が妥当かどうかを、感覚ではなく手順で確かめる方法を整理します。特定の物件や地域を推奨するものではなく、あくまで価格と賃料の根拠をどう読むかに徹します。

オーナーチェンジで、あなたが本当に買っているもの

買うのは「物件」ではなく「賃貸借契約が付いた物件」

まず前提を確認します。民法605条の2第1項は、賃貸借の対抗要件を備えた不動産が譲渡された場合、賃貸人たる地位は譲受人に移転すると定めています。賃借人の承諾は不要で、当然に移ります。同条第4項により、敷金の返還債務も新所有者が引き継ぎます。

つまりあなたが買うのは建物と土地だけではありません。賃料の額、契約期間、更新条件、原状回復の負担区分、賃料改定の特約——これらを含んだ契約をそのまま引き受けます。売買契約書と重要事項説明書だけを読んで賃貸借契約書を読まないのは、収益の中身を見ずに値札だけを見ているのと同じです。

表面利回りは「今の賃料」でしかない

販売図面の表面利回りは、現行賃料の年額を販売価格で割った数字にすぎません。この計算には、空室になった期間の損失も、管理費や修繕費や固定資産税といった運営費用も、そして「その賃料が今後も取れるのか」という検証も入っていません。

不動産鑑定評価の収益還元法では、満室想定の賃料収入から空室損失を控除し、運営費用を差し引いて純収益(NOI=Net Operating Income。運営段階で残る手取りの収益)を求め、これを還元利回り(純収益を価格に換算するための利率。投資家がその不動産に求める収益率)で割って収益価格を導きます。表面利回りと鑑定評価が見ている数字は、出発点からして別物です。この考え方の全体像は積算価格と収益価格はなぜ食い違うのかで整理しています。

現行賃料が「盛られる」典型パターン

賃料が実勢より高く見えている状態には、いくつか繰り返し現れる型があります。売主に悪意があるとは限りません。売却を有利に進めたいという合理的な動機から自然に生まれるものも含まれます。

パターン1:売却直前の賃料引き上げ・入替え

退去が出たタイミングで強気の賃料を設定し、フリーレント(一定期間の賃料を無料にする条件)や広告料の上乗せで成約にこぎつけ、その名目賃料のまま売りに出す型です。契約書上の賃料は確かにその金額ですが、貸主が負担したコストを保有期間で均せば実質の賃料はもっと低くなります。直近の賃貸借契約の締結日が売却検討時期と近くないかは必ず確認してください。

パターン2:親族・関係者の入居

売主本人や親族、関係法人が賃借人となっている型です。市場で決まった賃料ではないため相場との検証が効かず、さらに売買後まもなく退去する例が少なくありません。賃貸借契約書の賃借人名と売主名の関連、入居時期が売却検討時期と近くないかを見ます。

パターン3:サブリース賃料を実力と取り違える

サブリース(転貸を前提に事業者が一括で借り上げる形態)の借上賃料は、その事業者の判断で設定された金額であり、市場賃料そのものではありません。しかも最高裁平成15年10月21日判決は、サブリース契約にも借地借家法32条1項が適用され、事業者側から賃料減額請求ができると判断しています。借上賃料が将来にわたって保証されているわけではないという点は、購入判断の前提として押さえておく必要があります。

パターン4:残存期間の短い定期借家

定期借家契約(更新のない賃貸借)で高めの賃料が設定されており、残存期間が短いという型もあります。期間満了で確実に空きますから、その後の賃料が実勢まで下がることを織り込まなければなりません。契約の種別と満了日は、賃貸借契約書の第1条付近で必ず確認します。

検証1:実勢賃料に引き直す

ここからが実務です。3つの検証を順に行います。

同じ建物・近隣の募集賃料を集める

対象と同程度の面積・間取り・階数・向きの住戸について、現在募集中の賃料を複数集めます。同じ建物内に募集中の住戸があれば最良の比較材料です。無ければ、駅距離・築年数・構造が近い近隣物件で代替します。

このとき注意すべきは、募集賃料は成約賃料ではないという点です。募集価格から実際の成約までに調整が入るのが通常ですし、フリーレントや広告料といった条件も表に出ません。私たち鑑定士が査定と鑑定評価を分けて考える理由はここにあり、その違いは不動産鑑定評価と業者査定はなにが違うのかで説明しています。

賃料水準は上がっている、という前提も同時に置く

一方で、現行賃料が実勢より低いケースも当然あります。長期入居者の賃料が据え置かれている物件では、実勢賃料のほうが高いということが起こります。アットホーム株式会社の「全国主要都市の賃貸マンション・アパート募集家賃動向」(2026年6月)によれば、首都圏および主要都市のマンション平均募集家賃は全面積帯で前年同月を上回り、東京23区のシングル向きは25カ月連続で2015年1月以降の最高値を更新しています。

賃料上昇局面では、「盛り」を疑う作業と同時に上振れ余地を評価する作業も必要です。検証は減点のためだけに行うものではありません。

現行賃料が高すぎる場合のリスクを確認する

現行賃料が近傍同種の建物の賃料と比べて明らかに高い場合、借地借家法32条1項により、賃借人から将来に向かって賃料の減額を請求される可能性があります。同条は、租税負担の増減や経済事情の変動、近傍同種の建物の賃料との比較により賃料が不相当となったときの増減請求を定めたもので、増額だけでなく減額も対象です。買った翌年に減額請求を受ける事態は、実勢との乖離が大きい物件ほど起こりやすくなります。

検証2:純収益を組み立て直す

実勢賃料が見えたら、そこから運営費用と空室損を引いて純収益を作ります。

引くべき項目を漏らさない

区分所有であれば管理費と修繕積立金、賃貸管理手数料、固定資産税・都市計画税。1棟であればこれに加えて共用部の水道光熱費、清掃費、エレベーターや消防設備の保守点検費、損害保険料、そして将来の大規模修繕に備えた資本的支出の引当てが必要です。

販売図面にNOI利回りが記載されていても、そこに資本的支出や広告料が含まれていないことは珍しくありません。何を引いた数字なのかを一項目ずつ確かめてください。

空室損は「今満室だから0」ではない

満室稼働中でも、空室損をゼロで計算してはいけません。保有期間中に退去は必ず起き、次が決まるまでの空室期間と原状回復費用が発生します。地域と物件の性格に応じた標準的な空室率を織り込むのが、収益還元法の基本的な考え方です。

検証3:還元利回りを市場から取り直し、収益価格を出す

売主の利回りをそのまま使わない

純収益が固まったら、還元利回りで割って収益価格を求めます。ここで販売図面の利回りをそのまま使うと、検証の意味がなくなります。還元利回りは、類似の取引事例から求めた利回り、借入金と自己資金の構成から求めた利回り、割引率との関係から求めた利回りなどを突き合わせて決めるものです(不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節)。

想定されるケースで数字を確かめる

以下は構造を説明するために抽象化した想定ケースであり、特定の物件・地域を示すものではありません。都内の区分マンション1戸、販売価格2,400万円、現行賃料が月11.0万円(年132万円、表面利回り5.5%)という設定です。調査の結果、実勢賃料は月9.5万円と判断されたとします。

年間の運営費用は、管理費・修繕積立金で18万円、賃貸管理手数料で約5万円、固都税で約5万円、合計約28万円。空室損は年間賃料の5%を見込みます。

前提年間純収益収益価格(還元利回り4.5%)
現行賃料 月11.0万円約97万円約2,156万円
実勢賃料 月9.5万円約80万円約1,778万円

現行賃料をそのまま信じても収益価格は約2,156万円で、販売価格2,400万円には届きません。実勢賃料に引き直すと約1,778万円となり、販売価格との差は約622万円に広がります。月1.5万円という賃料差は小さく見えますが、収益価格に換算すると約378万円の違いです。年間18万円の賃料の差が、価格ではその20倍以上の幅で効いてくる。これが収益還元法という計算の性質です。

還元利回りの置き方でも価格は動きます。実勢賃料ベースの純収益80万円を前提にすると、次のとおりです。

還元利回り収益価格
4.2%約1,905万円
4.5%約1,778万円
5.0%約1,598万円

分子(純収益)の検証と分母(還元利回り)の検証は別作業です。どちらか一方だけでは価格の妥当性は判断できません。

数字の外側にある、契約書からしか読めない論点

最後に、賃料の検証だけでは拾えない項目を挙げておきます。

敷金・原状回復・入金実績

敷金の返還債務は新所有者が承継しますので、売買時に敷金相当額が精算されているかを決済条件で確認してください。原状回復の負担区分に貸主不利の特約が入っていれば、退去のたびに想定外の支出が発生します。あわせてレントロール(賃貸借条件の一覧表)の入金実績を確認し、滞納が常態化していないかを見ます。契約上の賃料が高くても、実際に入っていなければ収益ではありません。

税務・法務は専門家へ

法人での取得や同族間での売買を検討される場合、取得価額の土地建物按分や消費税の取扱いなど、税務上の論点が価格の妥当性と密接に関わります。具体的な取扱いは税理士にご確認ください。賃貸借契約の解釈や賃料増減額請求への対応については、弁護士にご確認ください。

まとめ

オーナーチェンジ物件の「満室稼働中・利回り6.2%」という表示は、価格の妥当性を何ひとつ保証しません。保証しているのは、契約書上の賃料が現時点で存在するという事実だけです。

要点を振り返ります。

  • 民法605条の2により賃貸人たる地位と敷金返還債務は買主に承継される。買うのは物件ではなく賃貸借契約が付いた物件である
  • 現行賃料が実勢より高く見える型は、売却直前の賃料引き上げ、親族・関係者入居、サブリース借上賃料、残存期間の短い定期借家の4つに整理できる
  • 検証は3段階で行う。実勢賃料への引き直し、運営費用と空室損を織り込んだ純収益の再構成、市場から取り直した還元利回りによる収益価格の算出である
  • 想定ケースでは、月1.5万円の賃料差が収益価格で約378万円の差となり、販売価格との乖離は約622万円に達した
  • 現行賃料が近傍同種の賃料と比べて不相当に高い場合、借地借家法32条1項に基づき賃借人から減額を請求される可能性がある

オーナーチェンジ物件を検討されている投資家の方に必要なのは、利回りを疑うこと自体ではなく、その分子と分母がどう作られたかを一段ずつ確かめる手順です。手順があれば、割高な物件を見送るだけでなく、実勢賃料のほうが高い「賃料が眠っている物件」を見つけることもできます。

収益物件の適正価値を客観的に把握したい投資家の方は、顧問鑑定士サービス(月額5,500円)で、検討中のオーナーチェンジ物件について実勢賃料と還元利回りの両面から壁打ちを行っています。買付を入れる前に価格の根拠を書面で押さえておきたい方には、鑑定評価書や価格等調査報告書のご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

#中級者向け#物件取得#収益還元法

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吉田 健人

不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士。 自らアパートを保有・経営する現役投資家。

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