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収益物件の価格は妥当か。売主の言い値を疑う5項目と、深掘りが必要なサインを鑑定士が整理する

·20 min read·著者:吉田 健人
収益物件の価格は妥当か。売主の言い値を疑う5項目と、深掘りが必要なサインを鑑定士が整理する

ポータルサイトで毎日何十件もの収益物件を眺めていると、「表面利回り8%」「駅徒歩10分」という数字だけで良し悪しを判断したくなります。しかし、その収益物件の価格が妥当かどうかは、利回りの数字だけでは分かりません。売出価格は売主の希望であり、市場が認めた価格ではないからです。

結論から言えば、価格の妥当性は「賃料水準・空室・修繕履歴・土地形状と接道・法規制」の5項目を順に確かめれば、買付前の段階でも粗く判定できます。5項目のどれかで説明のつかない差が出たら、その物件は深掘りするか見送るかを決める段階に進みます。

本コラムでは、私たち鑑定士が評価の初期段階で行う点検の順番を、投資家の方が物件情報を見る段階で使える一次チェックリストに組み直して紹介します。特定の物件や地域を推奨するものではなく、あくまで価格を疑うための型を示すものです。

収益物件の価格の妥当性は「説明できるか」で判断する

売出価格は「表面利回りの逆算」で作られていることが多い

収益物件の売出価格は、満室想定賃料を周辺で見かける表面利回りで割り戻して作られていることが少なくありません。年間の満室想定賃料が600万円で、周辺の売出事例が表面7.5%前後なら、売出価格は8,000万円という具合です。

この計算には、空室も運営費用も修繕も入っていません。さらに土地の条件や法令上の制約も反映されていません。つまり売出価格は、5項目のどこにも問題がないことを前提とした「上限寄りの価格」として読むのが安全です。

鑑定評価は「なぜその価格なのか」を積み上げる

不動産鑑定評価基準は、価格に影響する要因を一般的要因・地域要因・個別的要因に分け、対象不動産の個別的要因(その物件固有の条件)を具体的に分析するよう求めています。収益物件であれば、賃料・空室・運営費用から純収益(NOI=Net Operating Income。運営段階で残る手取りの収益)を求め、還元利回り(純収益を価格に換算するための利率)で割って収益価格を求めます。

投資家の方が買付前にこの作業をすべて行う必要はありません。ただ、売出価格が「どの前提なら説明できるのか」を5項目で確かめるだけで、検討すべき物件と見送るべき物件はかなり分かれます。

物件の見極めポイント:購入前に確かめる5項目

5項目と、それぞれ最初に確かめる資料を一覧にすると次のとおりです。

項目最初に見る資料見るポイント
1 賃料水準レントロール・募集事例現行賃料と募集相場の差
2 空室レントロール・販売図面空室の想定賃料と空室期間
3 修繕履歴修繕履歴・長期修繕計画直近数年で必要な工事
4 土地形状と接道公図・測量図・道路台帳再建築の可否と形状
5 法規制重要事項説明の下書き・確認済証容積率・検査済証の有無

1 賃料水準:現行賃料は募集相場と比べて高すぎないか

レントロール(部屋ごとの賃料・契約日・入居状況の一覧表)の賃料を、同じエリアで現在募集されている同程度の面積・築年数の住戸と比べます。長期入居者の賃料が募集相場より高い物件では、退去のたびに賃料が下がり、満室想定賃料は維持できません。

目安として、募集相場との差が戸あたり月額3,000円程度でも、10戸なら年間36万円の減収です。レントロールの読み方の詳細はレントロールのどこを疑うべきかで整理しています。

2 空室:空室の想定賃料と空いている期間を確かめる

満室想定賃料に含まれる空室の賃料は、売主側が置いた「想定」の数字です。空室が長期間埋まっていない場合、その想定賃料では借り手が付かないことを示している可能性があります。空室の募集開始時期と、同じ建物の直近の成約賃料を仲介会社に確認してください。

3 修繕履歴:直近数年で必要な工事が価格に入っているか

外壁塗装や屋上防水は、おおむね10〜15年程度の周期で再施工が検討されることが一般的です。最終施工年が分からない、または周期を過ぎている物件では、取得直後に数百万円規模の支出が生じることがあります。区分所有であれば、管理組合の長期修繕計画と修繕積立金の残高を確認します。売出価格にこの支出が織り込まれていることはまずありません。

4 土地形状と接道:再建築できる土地か

建築基準法43条は、建築物の敷地が原則として幅員4m以上の道路に2m以上接していることを求めています。この接道義務を満たさない土地は、建物を建て替えられない「再建築不可」となり、融資を受けにくく、出口(売却)でも買い手が限られます。同条2項の許可による例外はありますが、個別の審査が必要です。

旗竿地(道路に細い通路部分だけで接する土地)や極端な不整形地も、建物配置や将来の売却で不利になりやすい形状です。販売図面の敷地形状だけで判断せず、公図と測量図で確かめてください。

5 法規制:容積率オーバーや検査済証の欠落はないか

建築当時は適法でも、その後の法改正で現行基準に合わなくなった建物(既存不適格。建築基準法3条2項)は、建替え時に同じ規模を確保できないことがあります。これに対し、建築後の増築などで容積率を超過した「違反建築」や、完了検査を受けていない(検査済証がない)建物は、金融機関の融資審査で不利になりやすく、取得後の出口にも響きます。

建築確認の概要は役所の建築計画概要書や台帳記載事項証明書で確認できます。宅地建物取引業法35条の重要事項説明は契約直前に行われるため、買付前に仲介会社から下書きや役所調査の結果を取り寄せておくと判断が早くなります。

収益物件の価格の妥当性を簡易計算で確かめる

賃料・空室・修繕は金額に換算できる

1〜3の項目は、ざっくりとした金額に置き換えられます。次の順で計算すると、売出価格との差が見えてきます。

  1. 満室想定賃料を、募集相場に引き直す
  2. 空室率と運営費用を差し引いて純収益を出す
  3. 純収益を、周辺の取引水準に近い還元利回りで割る
  4. 直近数年で必要な修繕費を差し引く

還元利回りの水準をどう置くかは、この計算で最も価格が動く部分です。還元利回りの算定方法そのものは、本体サイトの還元利回りの求め方で価格は4,360万円変わる?で5つの算定法を詳しく解説しています。本コラムでは、投資家の方が一次チェックで使う場面に絞ります。

土地形状と法規制は「価格」より「可否」で判断する

一方、4と5で問題が見つかった場合は、単純な金額調整では片付きません。再建築不可や違反建築は、融資が付くか、出口で買い手が見つかるかという「取引が成り立つかどうか」の問題に直結するためです。この場合は減額幅を議論する前に、そもそも検討を続けるかを判断する必要があります。

想定されるケース:表面8%の木造アパートを一次チェックする

前提と計算

売出価格6,800万円、満室想定年収544万円(表面利回り8.0%)、築20年・木造10戸のアパートを想定します。5項目を確認した結果、次のことが分かったとします。

  • 賃料水準:募集相場は現行賃料より戸あたり月額3,000円低い(年間36万円の差)
  • 空室:2戸が空室で、想定賃料は募集相場並み
  • 修繕履歴:外壁塗装・屋根の再施工が未実施で、概算250万円が必要
  • 土地形状と接道・法規制:公道に4m以上接道、検査済証あり

この前提で、空室率5%・運営費用率20%・還元利回り6.0%として粗く計算します。

手順計算金額
賃料の引き直し544万円-36万円508万円
空室・運営費用控除508万円×0.95×0.8約386万円
収益価格の目安386万円÷6.0%約6,430万円
修繕費控除後6,430万円-250万円約6,180万円

売出価格6,800万円に対して、説明できる価格の目安は6,200万円前後です。差は約600万円、売出価格比で9%程度になります。

この差をどう読むか

差が売出価格比で数%に収まるなら、価格交渉の余地として扱える範囲です。指値の組み立て方は収益物件の指値はどこまで通るのかで詳しく扱っています。

一方、このケースのように差が1割近くに達する場合は、売主の前提のどこかに大きな無理があると見るべきです。このケースでも還元利回りを0.5ポイント動かすだけで収益価格は500万円前後変わるため、仮置きした数字の根拠を確かめる深掘りの段階に進みます。なお、ここでの数値は説明のための仮定であり、実際の物件の価格を示すものではありません。

深掘りが必要な物件を見極める基準

深掘りに進むべき3つのサイン

一次チェックの結果、次のいずれかに当てはまる物件は、そのまま買付に進まず深掘りしてください。

  • 売出価格と簡易計算の目安との差が、売出価格比でおおむね5%を超える
  • 土地形状・接道・法規制のいずれかで、再建築や融資に影響する論点が見つかった
  • レントロールや修繕履歴など、判断に必要な資料が出てこない

特に3つ目は見落とされがちです。資料が出ないこと自体が、価格を説明できない理由になります。

深掘りの方法と第三者の使いどころ

深掘りでは、周辺の取引事例と募集事例を集め直し、還元利回りと運営費用の水準を物件の立地・築年・規模に合わせて設定し直します。取引事例に基づく利回り水準の設定は、私たち鑑定士が日常的に行っている作業です。

金融機関への説明や売主との交渉に第三者の書面が必要な場合は、価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らない、目的・範囲を限定した価格調査)や、正式な鑑定評価書を使う方法があります。収益物件の鑑定評価書は40万円〜(顧問会員価格30万円〜)、価格等調査報告書は15万円〜です(いずれも税別)。両者の違いは不動産鑑定はいくらかかるのかで整理しています。

なお、取得後の税負担や法人での購入可否など、税務上の判断が絡む場合は税理士にご確認ください。

まとめ

収益物件の価格の妥当性は、売出価格を5つの前提に分解し、それぞれが説明できるかで判断できます。説明できない差が大きい物件ほど、深掘りか見送りの判断を急ぐべきです。

要点を振り返ります。

  • 売出価格は表面利回りの逆算で作られることが多く、空室・運営費用・修繕・土地や法令の制約を反映していない
  • 一次チェックは「賃料水準・空室・修繕履歴・土地形状と接道・法規制」の5項目で行う
  • 賃料・空室・修繕は金額に換算し、純収益÷還元利回り-修繕費で売出価格との差を粗く測る
  • 再建築不可や違反建築などの論点は、減額幅ではなく取引が成り立つかの問題として扱う
  • 差が売出価格比で5%を超える、重大な法令上の論点がある、資料が出ない、のいずれかなら深掘りに進む

毎日多くの物件情報に目を通している投資家の方ほど、この5項目を型として持っておくことで、検討に時間をかけるべき物件を早く絞り込めます。

収益物件の適正価値を客観的に把握したい投資家の方は、顧問鑑定士サービス(月額5,500円)で買付前の物件について一次チェックの結果をご相談いただけます。特定の1件について書面での裏づけが必要な場合は、個別のご相談も承っておりますので、ぜひ一度ご相談ください。

購入・融資・保有・売却の場面ごとの使い方や、費用・期間の目安は収益物件の不動産鑑定のページでまとめています。

#初心者向け#物件取得#チェックリスト
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吉田 健人

不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士。 自らアパートを保有・経営する現役投資家。

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