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融資戦略

積算価格が出ない物件は本当に買えないのか。評価が伸びない原因を土地要因と建物要因に切り分ける

·20 min read·著者:吉田 健人
積算価格が出ない物件は本当に買えないのか。評価が伸びない原因を土地要因と建物要因に切り分ける

「積算が4,000万円台しか出ません。この価格では難しいですね」。金融機関の担当者からそう言われ、話が止まってしまった。築25年の木造アパート、借地の店舗付き住宅、旗竿地の戸建賃貸。利回りは悪くない、むしろ相場より高い。それなのに評価が伸びない。

結論を先に申し上げます。積算価格が出ないこと自体は、その物件が悪いことを意味しません。積算価格(土地と建物をそれぞれ評価して積み上げる価格)は「作り直すといくらか」を測る一つの物差しにすぎず、その物差しが構造的に苦手とする物件の類型があるからです。問題は、出ないという結果ではなく、どこで減価が起きているのかを説明できないまま交渉に入ることです。

本コラムでは、積算が伸びない要因を土地側と建物側に切り分け、そのうち出口で実際に効く減価がどこかを整理します。特定の物件の購入を推奨するものではありません。税務の取扱いは税理士に、法律判断は弁護士にご確認ください。

「積算が出ない」と言われたとき、なにが計算されているのか

土地と建物を別々に積み上げている

積算価格は、土地価格と建物価格を別々に求めて合算します。土地は取引事例や公的価格から単価を出して面積を乗じ、建物は再調達原価(いま同じものを新築するといくらかかるか)から経過年数に応じた減価を差し引く。その建物がいくら稼いでいるかは、この計算にほとんど登場しません。

金融機関の「積算評価」は、鑑定の積算価格ではない

混同されがちですが、金融機関が担保評価で使う積算は、不動産鑑定評価基準に則った積算価格とは別物です。土地は相続税路線価(公示価格のおおむね8割水準)を使い、建物は法定耐用年数の残存割合で機械的に割り戻す。さらにその合計に掛け目を乗じる金融機関もあります。この構造は銀行の評価額が売買価格に届かないのはなぜかで分解しました。

つまり「積算が出ない」という言葉は、多くの場合、鑑定の積算価格ではなくその金融機関の内規で計算された数字を指しています。まずどちらの話かを確かめてください。

建物側の要因:減価は経過年数で自動的に進む

再調達原価は上がっているのに、評価は下がる

建設費は上昇しています。一般財団法人建設物価調査会の建築費指数によれば、住宅(木造)は2026年8月時点で152.7(2015年平均を100とする指数)。この10年で5割を超える上昇です。

それでも建物評価が伸びないのは、減価の進み方が年数に連動しているためです。法定耐用年数は木造22年、重量鉄骨造34年、鉄筋コンクリート造47年(国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」)。築25年の木造アパートは、この物差しの上ではすでに残存ゼロです。実際には入居者が住み、毎月家賃を生んでいても、担保評価上の建物価格は原則として立ち上がりません。

なお、法定耐用年数を全部経過した中古資産を簡便法により法定耐用年数の20パーセント(木造なら4年)で償却できる税務上の取扱い(国税庁タックスアンサーNo.5404)は減価償却の制度であり、担保評価の残存年数とは別の話です。適用可否は税理士にご確認ください。

残存年数は、評価額より先に融資期間を縛る

建物評価がゼロになると、影響は評価額だけにとどまりません。多くの金融機関は融資期間を耐用年数の残りに紐づけるため、返済年数が短くなり年間の元利返済額が膨らみます。結果として、融資可能額よりも返済比率のほうが先に天井にぶつかります。

土地側の要因:面積ではなく「使えるか」で減る

借地権と底地は、所有権と別の物差しで測る

借地権付きの建物は、土地の所有権がありません。評価では、相続税路線価図に付された借地権割合(地域ごとにAの90パーセントからGの30パーセントまで記号で示されます)が目安として参照され、住宅地では6割から7割程度の地域が多くを占めます。所有権なら1億円の土地でも、借地権では6,000万円台にとどまる計算です。

さらに金融機関によっては、譲渡や建て替えに地主の承諾が要ること、処分の自由度が下がることを理由に、借地物件そのものを担保として扱いにくいとする方針を採ります。これは評価の巧拙ではなく方針の問題であり、鑑定評価書で覆せる部分ではありません。

間口・形状・接道は、有効に使える面積を削る

不動産鑑定評価基準は、土地の価格形成要因として街路条件、交通接近条件、環境条件、画地条件、行政的条件を挙げています。このうち画地条件は個別の減価に直結します。間口が狭い、奥行が長すぎる、旗竿地である、道路が狭くセットバックを要する。いずれも有効に使える面積や建てられる建物の自由度を削るため、単価に補正がかかります。

ただし、ここが分岐点です。賃貸経営として見れば、旗竿地の戸建も間口の狭いアパートも、入居者が付けば同じように家賃を生みます。画地条件の減価は、更地として建て替えるときや売却するときに効く要因であり、保有中の収益には直結しません。土地の物差しと収益の物差しがずれるのは、この点です。

想定されるケースで分解してみる

抽象化した想定のケースで数字を追います。特定の物件を前提としたものではありません。

売買価格1億2,000万円、満室想定の年間純収益780万円(諸経費控除後)の木造アパート。築24年、土地は120平方メートルの旗竿地で、借地ではありません。

項目評価額主な理由
土地(金融機関の積算)4,320万円路線価45万円×120平方メートル、画地条件の補正0.8
建物(金融機関の積算)0円木造の法定耐用年数22年を経過
積算合計4,320万円売買価格の36パーセント
収益価格1億2,000万円純収益780万円を還元利回り6.5パーセントで還元

積算と収益で3倍近い開きが出ました。見るべきは差の大きさではなく中身です。分解すると3種類が混ざっています。

  • 建物評価がゼロになっている部分。年数という制度上の物差しで消えているだけで、家賃を生む能力が失われたわけではありません
  • 画地条件の補正0.8による約1,080万円。これは建て替え・売却のときに実際に効く減価です。つまり出口で回収できない可能性のある、実質的な減価にあたります
  • 路線価が公示価格のおおむね8割水準であることによる差。これは評価の土台がそもそも時価より低いという制度の話で、物件の良し悪しとは関係ありません

判断すべきは2つ目、すなわち出口で実際に効く減価の大きさです。積算と収益の使い分けそのものは積算価格と収益価格はなぜ食い違うのかで整理しました。なお還元利回りは立地・築年・遵法性で大きく変わり、ここでの数値は説明のための仮定です。

金融機関の評価方針には幅がある

積算重視か、収益重視か

同じ物件でも、金融機関によって評価は変わります。土地の担保価値を重く見る先は積算を軸に置くため、積算割れの物件には慎重です。一方、賃料収入の安定性と返済原資を軸に見る先は、債務返済カバー率(純収益が元利返済額の何倍あるか)のような指標を重く扱います。

どちらが正しいというものではなく、方針の違いです。ある金融機関で断られた案件が別の金融機関で通ることは珍しくありません。ただし、積算割れを収益性で説明するには、その収益が実力であることを示す必要があります。現行賃料が相場より高く設定されている物件では説明が崩れるため、取得前の賃料検証が前提になります。

鑑定評価書が効く場面と、効かない場面

率直に申し上げます。金融機関の内規で計算される担保評価そのものを、鑑定評価書が書き換えることはできません。効くのは内規の外側で判断される部分です。収益価格の合理性を稟議の補助資料として示す、同族間売買や法人化に伴う売買で価格の妥当性を裏づける、画地条件や借地権の減価が過大に見積もられていないかを第三者の立場から示す。こうした場面では意味を持ちます。

書面の選び方には線引きがあります。購入前の判断材料として減価の内訳を把握したい段階なら価格等調査報告書で足り、金融機関や税務署のように第三者が読む前提があるなら鑑定評価書を選んでください。この使い分けは不動産鑑定はいくらかかるのか。鑑定評価書と価格等調査報告書の違いで整理しています。

評価では解けない積算割れもある

一方で、再建築不可である、検査済証がない、建ぺい率や容積率に違反した状態にあるといった物件は、鑑定評価書があっても融資は動きにくい。評価の問題ではなく、担保として処分できるかという問題だからです。同じ理由で、あなたが売る番になったときも買い手に融資が付きません。この類型だけは収益性で埋め合わせられないものとして慎重に判断してください。

まとめ

積算価格が出ないことと、その物件を買うべきでないことは、同じではありません。積算は「作り直すといくらか」を測る物差しであり、築古・借地・変形地は、その物差しが構造的に苦手とする類型です。ただし、減価の中身を分解しないまま「収益が回るから大丈夫」と進めるのは危険だと断言します。

要点を振り返ります。

  • 「積算が出ない」の多くは、鑑定の積算価格ではなく金融機関の内規による担保評価を指す。まずどちらの話かを確かめる
  • 建設費は上昇しており(建設物価調査会の建築費指数で住宅・木造は2026年8月時点152.7)、再調達原価自体は上がっている。それでも評価が伸びないのは、減価が経過年数に連動するため
  • 法定耐用年数(木造22年、重量鉄骨造34年、鉄筋コンクリート造47年)の残りは、評価額だけでなく融資期間と返済比率にも効く
  • 土地側の減価は借地権割合と画地条件(間口・形状・接道・セットバック)で生じ、これらは保有中の収益ではなく出口で効く
  • 減価を「制度上のもの」「出口で実際に効くもの」「物件固有の弱点」に分解し、後ろの2つの大きさで判断する
  • 金融機関の方針には幅があるが、再建築不可・検査済証なし・違法建築は評価では解けない

築古や変形地、借地の物件を検討していて積算割れの意味を判断しかねている方、金融機関から評価が伸びない理由を説明されないまま話が止まっている方。減価の内訳が分かれば、指値の根拠にも、別の金融機関に持ち込む際の説明にも使えます。

収益物件の適正価値を客観的に把握したい投資家の方は、顧問鑑定士サービス(月額5,500円・税込)で、検討中の物件について積算のどこが減っているのかの壁打ちを承っています。取得や融資交渉で第三者の評価が必要な場面では、価格等調査報告書・鑑定評価書いずれもお見積りを差し上げます。販売図面と登記事項証明書をお手元にご相談ください。

#中級者向け#融資戦略#積算価格

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吉田 健人

不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士。 自らアパートを保有・経営する現役投資家。

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