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出口戦略

出口の想定利回りは何%で置くべきか。10年後の売却価格を見積もる最終還元利回りの決め方

·25 min read·著者:吉田 健人
出口の想定利回りは何%で置くべきか。10年後の売却価格を見積もる最終還元利回りの決め方

収益物件の購入を検討するとき、多くの投資家の方が保有シミュレーションを作ります。年間の賃料収入があって、運営費用と借入返済を引いて、手元にいくら残るか。ここまでは表計算ソフトで淡々と積み上げられます。ところが最後の1行、「10年後にいくらで売れるか」のところで、多くのシートが同じ置き方をしています。購入したときと同じ利回りで売れる、という前提です。

この置き方は、最終的な投資成績を大きく歪めます。なぜなら物件は10年分古くなっており、賃料も、市場が求める利回りも、購入時とは違う水準になっているからです。にもかかわらず出口の利回りだけが据え置かれていると、シミュレーションは自動的に楽観へ傾きます。そして出口価格の誤差は、保有期間中のキャッシュフローの誤差より、はるかに大きく最終収支に効きます。

本コラムでは、私たち鑑定士がDCF法で復帰価格を求めるときに使う「最終還元利回り」の考え方を、投資家の保有シミュレーションに翻訳します。どの水準を出発点にするのか、築年・エリア・金利でどう動かすのか、そして置き方の差が最終収支をどれだけ動かすのかを、想定されるケースの数値で示します。

出口の売却価格は「純収益÷最終還元利回り」で決まる

保有シミュレーションの結論は、最後の1行で決まる

保有期間中のキャッシュフローは、賃料収入から運営費用と借入返済を差し引いた残りです。1年あたり数百万円の世界で、10年積み上げても数千万円に届くかどうかという規模感になります。

一方、売却価格は物件価格そのものの規模です。1億5,000万円で買った物件が1億4,000万円で売れるのか1億2,000万円で売れるのかという差は、それだけで2,000万円。保有10年分のキャッシュフローに匹敵するか、それを超えます。

つまり、保有シミュレーションの精度は、出口価格の置き方の精度でほぼ決まります。ここを一行の思い込みで済ませてしまうのは、計算全体の意味を失わせる行為だと断言します。

最終還元利回り(ターミナルキャップレート)とは何か

私たち鑑定士がDCF法(Discounted Cash Flow法。将来の各年の収益と売却価格を現在価値に割り戻して合計する手法)で収益価格を求めるとき、保有期間満了時点の売却価格を「復帰価格」と呼びます。復帰価格は次の式で求めます。

復帰価格=保有期間満了の翌年の純収益÷最終還元利回り

最終還元利回り(ターミナルキャップレート)は、売却時点における買主の期待利回りです。買主はそのときの物件を、そのときの市場水準で評価します。だから現在の還元利回りとは別の数字になります。

ここで押さえるべきは、分子と分母の両方が動くという点です。分子の純収益は賃料下落と運営費用の増加で減り、分母の最終還元利回りは築年の経過で上がる。つまり出口価格は、上下から挟まれて下がる方向に力がかかっています。購入時と同じ利回りを置くということは、この下向きの力のうち半分を無視するということです。

なお、還元利回りと割引率の関係、直接還元法とDCF法の構造の違いについては直接還元法とDCF法は何が違うのか。還元利回りと割引率の関係を数値例で整理するで整理しています。本コラムはその出口部分を投資家目線で掘り下げるものです。

0.5ポイントの差が、最終収支をどれだけ動かすか

感覚をつかむために、単純な計算をしてみます。11年目の純収益を780万円とすると、最終還元利回りごとの売却価格は次のようになります。

最終還元利回り売却価格5.6%との差
5.6%1億3,929万円
6.1%1億2,787万円▲1,142万円
6.6%1億1,818万円▲2,111万円

わずか0.5ポイントの置き方の違いで1,100万円以上、1.0ポイントで2,100万円以上動きます。この物件の年間純収益が780万円ですから、利回りを0.5ポイント楽観的に置くことは、保有1年半分の純収益をシートの上で勝手に稼いだことにするのと同じです。

最終還元利回りが動く3つの要因

要因1:築年の経過——残存耐用年数が利回りに乗る

最も確実に効くのが築年です。建物は年々古くなり、買主から見れば残りの収益期間が短くなります。さらに設備の更新時期が近づき、将来の修繕負担が読みにくくなります。買主はこの不確実性を、より高い利回りを要求することで吸収します。

鑑定実務では、保有期間の長さと建物の劣化の度合いを踏まえ、現在の還元利回りに一定幅を上乗せして最終還元利回りを置きます。個人投資家の保有シミュレーションでも、10年保有なら0.3〜0.8ポイント程度を上乗せしておくのが、少なくとも据え置きよりは現実に近い置き方です。

ただし、この幅は物件の構造によって変わります。RC造(鉄筋コンクリート造)で法定耐用年数47年の物件が築15年から築25年になるのと、木造で法定耐用年数22年の物件が築15年から築25年になるのとでは、買主から見た残りの時間がまったく違います。木造や軽量鉄骨造の築古物件では、融資期間が取れなくなることで買主層そのものが細り、利回りの上昇幅は1ポイントを超えることもあります

要因2:エリアの厚み——買主が何人いるか

同じ築年でも、エリアによって利回りの動き方は違います。買主候補が厚いエリアでは、物件が古くなっても次の買い手が見つかりやすく、利回りの上昇は緩やかです。逆に買主が限られるエリアでは、築年の経過がそのまま流動性の低下につながり、利回りは跳ねます。

一般財団法人日本不動産研究所の第54回不動産投資家調査(2026年4月現在)によれば、賃貸住宅一棟の期待利回りは、東京・城南でワンルームタイプ3.6%・ファミリータイプ3.7%と、いずれも前回調査から0.1ポイント低下しました。一方、地方主要都市は横浜4.2%前後から札幌・仙台5.0%前後まで分布しており、ファミリータイプでは全ての調査地区で横ばいとなっています。

この地域差そのものが、買主の厚みの差です。そして重要なのは、地方物件ほど築年経過による利回り上昇の幅が大きくなりやすいという点です。都心の水準に地方の物件を当てはめるのはもちろん誤りですが、それ以上に、地方物件で「購入時と同じ利回りで10年後も売れる」と置くことのほうが危険です。

要因3:金利環境——調達コストが買主の要求水準を押し上げる

買主は借入で物件を取得します。調達金利が上がれば、同じ純収益でも手残りが減るため、買主はより高い利回りを要求します。これが金利と還元利回りの連動です。

日本銀行は2026年9月の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を1.25%程度へ引き上げることを決定しました。同年6月の1.00%への引き上げから3か月での追加利上げであり、政策金利は約31年ぶりの水準となっています。この局面で「10年後も現在と同じ利回りで売れる」と置くのは、金利がこの先ずっと動かないと仮定するに等しい置き方です。

もっとも、金利の先行きを正確に当てられる人はいません。私たち鑑定士も予測はしません。だからこそ、単一の数字ではなく複数のシナリオで出口を置くという手続きが必要になります。金利上昇が担保評価そのものに及ぼす影響については金利上昇で銀行の担保評価はどう変わるのか。政策金利1%時代の融資枠と物件価格の読み方で整理しています。

想定されるケース:3シナリオで最終収支を比べる

前提の置き方

抽象化した想定ケースで、出口利回りの置き方が最終収支をどう動かすかを見ます。特定の物件を推奨するものではありません。

  • 物件:地方中核都市の1棟RCマンション、築15年
  • 購入価格:1億5,000万円(自己資金3,000万円、借入1億2,000万円)
  • 借入条件:金利年2.0%、期間25年、元利均等返済(年間返済額 約610万円)
  • 購入時の年間純収益:840万円(購入時の還元利回り 5.6%)
  • 保有期間:10年(売却時は築25年)
  • 11年目の純収益:780万円(賃料下落と運営費用増を織り込み、年平均約0.7%の減少)
  • 売却諸費用:仲介手数料(売買価格の3%+6万円に消費税)相当を控除
  • 10年経過後の借入残債:約7,900万円
  • 10年間の税引前キャッシュフロー累計:約2,000万円

シナリオを3本引く

最終還元利回りを、購入時と同じ5.6%(強気)、0.5ポイント上乗せの6.1%(標準)、1.0ポイント上乗せの6.6%(保守)の3本で置きます。

シナリオ売却価格売却手取り10年間の最終収支
強気 5.6%1億3,929万円約5,563万円約4,560万円
標準 6.1%1億2,787万円約4,458万円約3,460万円
保守 6.6%1億1,818万円約3,521万円約2,520万円

売却手取りは売却価格から諸費用と残債を差し引いた金額、最終収支は保有期間の累計キャッシュフローと売却手取りの合計から自己資金3,000万円を差し引いた税引前の金額です。譲渡所得に対する課税は別途生じますので、具体的な税額は税理士にご確認ください。

この表から読み取るべきこと

強気シナリオと保守シナリオで、最終収支は約4,560万円と約2,520万円。利回りの置き方を1ポイント動かしただけで、10年間の投資成果が45%も削られます。同じ物件、同じ賃料、同じ返済条件であるにもかかわらずです。

ここで強調したいのは、どのシナリオが正しいかではありません。保守シナリオでも投資として成立するかどうかが、購入判断で確かめるべきことです。保守シナリオの約2,520万円が自己資金3,000万円に対する10年間のリターンとして納得できるなら、その物件は出口の不確実性に耐えます。逆に強気シナリオでなければ成立しない物件は、利回りが0.5ポイント動いただけで前提が崩れる投資だということになります。

出口の時期そのものをどう判断するかについては収益不動産の売却タイミングを、感覚ではなくデータで決めるもあわせてご覧ください。

実務で出口利回りを置くための4つの手順

手順1:購入時の還元利回りを、表面利回りではなく純収益から求める

出発点を間違えると、以降がすべてずれます。販売資料の表面利回りは満室想定の年間賃料収入を価格で割った数字であり、運営費用を引いていません。運営費用が有効総収益の20〜30%を占めることを踏まえると、表面利回り8%の物件の実力はおおむね6%前後です。まず自分の物件の純収益ベースの利回りを確定させてください。

手順2:市場データで自分の置き方を検証する

不動産投資家調査のような公表データは、機関投資家が対象とする優良物件の水準です。個人投資家が取得する築古物件や地方物件では、これより数ポイント高い水準が妥当になります。数値をそのまま当てはめるのではなく、「自分の物件は調査対象と比べてどれだけリスクが高いか」を言葉で説明できる状態にしてから、上乗せ幅を決めます。

手順3:分子の純収益も一緒に動かす

最終還元利回りだけを上げて、純収益を購入時のまま据え置くシートをよく見かけます。これでは片手落ちです。10年後の賃料水準、空室率、運営費用、そして大規模修繕の実施有無を織り込んだうえで、11年目の純収益を置き直してください。賃料の実力そのものを疑う視点はレントロールのどこを疑うべきか。列ごとの見方と、想定賃料の差が1棟価格に効く仕組みにまとめています。

手順4:3本のシナリオを残し、保守シナリオで判断する

最終的に1つの数字に丸めないことが肝心です。強気・標準・保守の3本を併記したまま残し、購入判断は保守シナリオで行う。この手順を踏めば、後から市場が動いても「どのシナリオに近づいているか」で現在地を測れます。単一の数字しか残っていないシートは、外れた瞬間に何の情報も与えてくれません。

なお、第三者に説明する必要がある場面——金融機関への説明、共同出資者への報告、相続対策の検討——では、こうした前提を鑑定評価書や価格等調査報告書の形で整理しておくと、根拠のある数字として扱われます。契約条項の解釈が絡む場面では弁護士に、税務の判断については税理士にご確認ください。

まとめ

出口の想定利回りは、保有シミュレーションのなかで最も結論を左右し、最も安易に置かれている数字です。購入時と同じ利回りを据え置くという置き方は、築年の経過も、賃料の下落も、金利環境の変化も、すべて無視するという宣言に等しいと断言します。

要点を振り返ります。

  • 出口の売却価格は「保有期間満了の翌年の純収益÷最終還元利回り」で求める。分子は減り、分母は上がるため、価格は上下から下向きの力を受ける
  • 最終還元利回りを0.5ポイント楽観的に置くと、想定ケースでは売却価格が1,100万円以上、1.0ポイントで2,100万円以上変わった
  • 利回りが動く要因は築年の経過・エリアの買主の厚み・金利環境の3つ。木造や地方物件では上昇幅が1ポイントを超えることもある
  • 日本不動産研究所の第54回不動産投資家調査(2026年4月現在)では東京・城南の賃貸住宅一棟の期待利回りがワンルーム3.6%・ファミリー3.7%、地方主要都市は4.2〜5.1%前後に分布している
  • 日本銀行は2026年9月に政策金利を1.25%程度へ引き上げた。金利が動く局面で単一シナリオの出口設定は危うい
  • 想定ケースでは、出口利回り5.6%と6.6%で10年間の最終収支が約4,560万円と約2,520万円になり、45%の開きが出た
  • 強気・標準・保守の3シナリオを併記し、保守シナリオでも成立する物件を選ぶ。これが出口の不確実性に耐える唯一の実務的な方法である

これから1棟収益物件の取得を検討される投資家の方、すでに保有していて数年内の出口を考え始めている方にとって、出口利回りの置き方は「買ってよいか」「持ち続けてよいか」を分ける分水嶺です。表計算シートの最後の1行に、根拠のある数字を入れてください。

収益物件の適正価値を客観的に把握したい投資家の方は、顧問鑑定士サービス(月額5,500円)で、検討中の物件や保有物件について出口利回りの置き方とシナリオの妥当性を一緒に検証しています。金融機関や共同出資者への説明資料として鑑定評価書・価格等調査報告書が必要な場面のご相談もあわせて承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

#中級者向け#出口戦略#収益還元法

Author

吉田 健人

不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士。 自らアパートを保有・経営する現役投資家。

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