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税務・相続

土地と建物の按分で減価償却費はどれだけ変わるのか。契約書・固定資産税評価額・鑑定評価の3方式と、税務で問われる合理性

·28 min read·著者:吉田 健人
土地と建物の按分で減価償却費はどれだけ変わるのか。契約書・固定資産税評価額・鑑定評価の3方式と、税務で問われる合理性

「売買契約書には総額1億円としか書かれていません。土地と建物の内訳は、こちらで好きに決めてよいのでしょうか」。収益物件を取得された投資家の方から、決済が終わったあとに慌ててご連絡をいただくことがあります。

このご質問に対する答えは、二段構えになります。まず、内訳を決めること自体は買主の側で行わなければなりません。総額しか決まっていない以上、減価償却費を計算するには建物の取得価額を確定させる必要があるからです。しかし「好きに決めてよい」わけではありません。按分の比率が合理性を欠くと判断されれば、税務調査で建物価格を引き下げられ、過去にさかのぼって減価償却費が否認されます。1棟物件では、その影響が数百万円単位に及ぶこともあります。

厄介なのは、按分の方法について「これが唯一の正解」という法令上の定めが存在しないことです。実務では契約書での区分、固定資産税評価額比による按分、不動産鑑定評価に基づく按分という3つの方式が併存しており、どれを選ぶかで建物価格は大きく変わります。本コラムでは、按分比率が手取りに効く仕組み、3方式それぞれの説明力の差、そして近年の裁判例・裁決に表れた判断の枠組みを、私たち鑑定士が整理します。なお税務上の最終的な取扱いは物件と申告者の状況によって変わりますので、実行前に必ず税理士にご確認ください。

按分比率は、なぜ手取りに効くのか

減価償却できるのは建物だけ

不動産の取得価額のうち、経費に落とせるのは建物と建物附属設備の部分だけです。土地は時間の経過によって価値が減耗する資産とは扱われないため、減価償却の対象になりません。この非対称性が、按分比率を損益に直結させます。

総額が同じ1億円でも、建物に3,500万円を配分するのか5,500万円を配分するのかで、毎年の減価償却費はまったく別の金額になります。不動産所得は家賃収入から経費を差し引いて計算されますから、減価償却費の差はそのまま課税所得の差、つまり納税額の差として現れます。

中古物件では償却期間も短い

中古の建物を取得した場合、耐用年数は新築時の法定耐用年数をそのまま使うのではなく、経過年数に応じて短縮できます。法定耐用年数の全部を経過していない資産については、減価償却資産の耐用年数等に関する省令第3条第1項第2号により、残存耐用年数に経過年数の20パーセントを加えた年数を用いる簡便法が認められています。

たとえば鉄筋コンクリート造の住宅用建物であれば法定耐用年数は47年ですので、築15年の物件なら、47年から15年を引いた32年に、15年の20パーセントにあたる3年を加えた35年が耐用年数になります。償却期間が短くなるということは、1年あたりの償却費が大きくなるということです。建物価格の差が、より短い期間に凝縮して効いてきます。

消費税にも同時に効いている

按分は所得税・法人税だけの問題ではありません。土地の譲渡は消費税の非課税取引ですが、建物の譲渡は課税取引です。売主が課税事業者であれば、建物価格が上がるほど売主の納める消費税は増えます。売主と買主で按分についての利害が対立するのは、このためです。

なお買主の側で仕入税額控除を期待するのは、居住用の賃貸物件では難しくなっています。令和2年度税制改正により、消費税法第30条第10項で居住用賃貸建物にかかる課税仕入れ等の税額は仕入税額控除の対象から除かれました。令和2年10月1日以後に取得する、税抜き1,000万円以上の高額特定資産(一定金額以上の棚卸資産や調整対象固定資産)等に該当する建物が対象です。ただし同法第35条の2により、一定期間内に課税賃貸用へ転用したり譲渡したりした場合には調整が行われます。住居系の1棟物件を取得される方は、建物価格を上げても消費税が戻ってくるわけではない点を前提に置いてください。

按分3方式の説明力を比べる

方式1:売買契約書に土地と建物の内訳を明記する

最も強い方式は、売買契約書そのものに土地価格と建物価格を書き分けてもらうことです。消費税法基本通達10-1-5は、建物と土地を同一の者に対して同時に譲渡した場合において、譲渡代金を合理的に区分しているときは、その区分したところによる旨を定めています。利害の対立する売主と買主が交渉のうえで合意した金額であれば、その内訳には交渉そのものによる裏づけがあります。

ただし万能ではありません。契約書に書きさえすれば通るわけではなく、その金額が著しく不合理であれば否認されます。実際、売主が免税事業者や個人で消費税に無関心な場合、買主の希望どおりに建物価格を高く書いてもらえてしまうことがあり、こうした「利害が対立していない内訳」は税務の側から見れば交渉の裏づけを欠いた数字です。

方式2:固定資産税評価額の比で按分する

内訳の定めがない場合に最も広く使われているのが、固定資産税評価額の比による按分です。消費税法施行令第45条第3項は、課税資産と非課税資産を一括して譲渡した場合に対価の額が合理的に区分されていないときは、それぞれの資産の譲渡時の価額の比により按分する旨を定めており、固定資産税評価額はその価額比の代用として扱われています。

この方式の利点は、第三者である市区町村が評定した客観的な数値をそのまま使える点、そして課税明細書や評価証明書で誰でも同じ数字を確認できる点にあります。手間も費用もかかりません。

弱点は、土地と建物が別々の物差しで評価されていることです。土地の評価は地価公示価格の7割程度を目途としますが、建物の評価は再建築費を基礎とする独自の方式で、市場での取引実態とは連動しません。結果として、地価の高いエリアでは土地に寄りやすく、地方の大型建物ではその逆に振れやすい、という歪みが生じます。

方式3:不動産鑑定評価に基づいて按分する

3つめが、土地と建物をそれぞれ評価してその比率で総額を配分する方法です。土地は取引事例比較法により更地としての価格を求め、建物は再調達原価から経過年数や機能的・経済的な減価を反映させて求めます。両者を合算した価格を積算価格(土地と建物の価格を積み上げて求めた価格)と呼び、その内訳比率を実際の売買総額に適用します。

この方式の強みは、対象物件の個別事情を反映できることです。法定耐用年数を経過してもなお稼働している建物、大規模修繕を終えて設備を刷新した建物、逆に用途が限定されて市場性の乏しい建物。固定資産税評価額では拾えないこうした要素を、根拠を示しながら価格に織り込めます。費用と時間はかかりますが、「なぜこの比率なのか」という問いに書面で答えられるのは、実質的にこの方式だけです。

想定されるケース:1億円の1棟RCマンションを2方式で按分する

抽象化した想定のケースです。特定の物件を前提としたものではありません。

売主が個人で、売買契約書には総額1億円とのみ記載された鉄筋コンクリート造・築15年の1棟マンションを取得したとします。中古の簡便法による耐用年数は前述のとおり35年、定額法の償却率は0.029です。固定資産税評価額の比は土地65対建物35、一方で鑑定評価による積算価格の内訳比は土地45対建物55だったとします。

按分方式建物の取得価額年間の減価償却費説明の根拠として
固定資産税評価額比(65対35)3,500万円約101万円客観的だが個別事情は反映されない
鑑定評価の積算価格比(45対55)5,500万円約159万円評価過程を書面で提示できる

年間の減価償却費の差は約58万円です。所得税と住民税を合わせた限界税率が30パーセントの方であれば、年間およそ17万円、35年間の累計で600万円規模の税額の違いになります。

ただし、ここで正確に申し上げておかなければならないことがあります。減価償却による節税は、あくまで課税の繰延べです。償却を進めれば建物の帳簿価額はその分だけ下がりますから、将来売却したときの譲渡所得は大きくなります。得られるのは、保有期間中の総合課税の税率と、売却時の分離課税の税率との差にあたる部分と、資金を手元に長く置けることの効果です。「建物価格を高くすればするほど得」という単純な話ではありません。実際の試算は、保有方針と他の所得を踏まえて税理士にご依頼ください。

税務はどこを見ているのか

鑑定評価に基づく按分が認められた裁判例

按分方法をめぐる近年の判断として、東京地方裁判所が令和4年6月7日に言い渡した判決があります。土地建物の一括譲渡について、納税者が鑑定評価額の比率(土地77.30パーセント、建物22.70パーセント)で按分したのに対し、課税庁が固定資産税評価額の比率(土地55.51パーセント、建物44.49パーセント)によるべきだと主張した事案です。

裁判所は、固定資産税評価額による価額比を用いることについて一般的には合理性を肯定し得るとしたうえで、当該資産の個別事情を考慮した適正な鑑定が行われ、その結果として固定資産税評価額と異なる評価がされて価額比にも実質的な差異が生じた場合には、適正な鑑定に基づく評価額による価額比を用いて按分するのがより合理的となる、と判示しました。固定資産税評価額比が絶対の基準ではないことを、司法が明示した判断です。

契約書の内訳が否認された裁決

一方、令和6年11月14日には国税不服審判所の裁決も出ています。不動産貸付を行う個人事業主が第三者から土地建物を繰り返し一括取得し、契約書上の按分価額をもとに不動産所得の減価償却費と消費税の仕入税額控除を計算していたところ、課税庁がその配分は著しく不合理であるとして、固定資産税評価額の価額比によるべきだと更正処分(税務署が申告内容を是正して税額を改める処分)をした事案です。

審判所は課税庁の処分の多くを維持しましたが、法定耐用年数を経過してもなお継続的に利用されているといった個別事情を考慮した適正な鑑定評価がなされていた物件については、鑑定評価に基づく按分が合理的であるとして、更正処分の一部を取り消しました。

読み取るべき枠組み

この2つから読み取れる構図は明快です。固定資産税評価額比は「反論されにくい標準」であり、そこから離れた比率を採る場合には、離れたことを説明する責任が納税者の側に生じます。そして、その説明として実際に通用したのは、適正な手続で行われた鑑定評価でした。

逆に言えば、根拠のない契約書上の内訳や、建物価格を膨らませることを目的に逆算された数字は、この枠組みの中では守られません。同族間での売買であれば、価格の妥当性はさらに厳しく見られます。この点は法人化で物件を資産管理会社に移すとき、売買価格はいくらにすべきかで整理しました。

按分のために鑑定をどう使うか

タイミングは取得時が最も効く

鑑定による按分をお考えであれば、着手すべきは取得の前後、遅くとも最初の申告までです。理由は2つあります。第一に、価格時点を取得時に置いた評価は、その時点の市場データで組み立てられるため精度が高くなります。第二に、申告前に用意された書面は「最初から根拠を持って計算していた証拠」になりますが、指摘を受けてから取得した書面は「後付けの反論材料」と見られます。同じ内容の書面でも、取得のタイミングで意味合いが変わります。

なお按分に用いる積算価格の考え方は、融資審査で銀行が見る積算評価と土台を共有しています。この構造は積算価格と収益価格はなぜ食い違うのかで詳しく扱いました。

鑑定評価書と価格等調査報告書の選び分け

取得後の申告に添える根拠として、また将来の税務調査に備える資料として最も説明力が高いのは、不動産鑑定評価基準に従って作成する鑑定評価書です。採用した取引事例、再調達原価の算定根拠、減価修正の内容まで書面に記載されるため、第三者が検証できる形になります。

一方、購入を検討している段階で按分比率のおおよその水準を知りたい、という場面もあるでしょう。その場合は、鑑定評価基準に則らない調査であることを明示した価格等調査報告書という選択肢があります。費用を抑えて水準を掴み、取得が決まった段階で鑑定評価書に切り替える進め方です。両者の違いと費用の目安は不動産鑑定はいくらかかるのかで整理しています。

出口でも同じ論点が戻ってくる

按分は買うときだけの話ではありません。売却するときには、今度はあなたが売主として建物価格を決める立場になります。建物価格が高ければ消費税の負担が増え、買主にとっては償却メリットが増えます。取得時に鑑定で内訳を固めておけば、売却時にも同じ物差しで説明でき、交渉の材料にもなります。按分の根拠づくりは、保有期間全体を通じて効き続ける投資家の準備です。

まとめ

土地と建物の按分は、総額が同じでも手取りを大きく左右する論点です。そして按分方法に唯一の正解がない以上、選んだ比率を説明できるかどうかが、そのまま税務上の安全度になります。

要点を振り返ります。

  • 減価償却できるのは建物部分のみで、按分比率の差はそのまま課税所得の差になる
  • 中古建物は耐用年数が短縮されるため(耐用年数省令第3条第1項第2号の簡便法)、価格差が1年あたりに与える影響は大きい
  • 契約書での区分、固定資産税評価額比、鑑定評価に基づく按分の3方式があり、説明力と手間が異なる
  • 東京地裁令和4年6月7日判決は、個別事情を考慮した適正な鑑定があれば固定資産税評価額比より鑑定評価額比による按分が合理的になりうると判示した
  • 令和6年11月14日裁決も、適正な鑑定評価がある物件については鑑定に基づく按分を認めた
  • 居住用賃貸建物では消費税の仕入税額控除が制限されている(消費税法第30条第10項)
  • 減価償却は課税の繰延べであり、売却時の譲渡所得が増える点まで含めて判断する必要がある

これから1棟物件を取得される方、すでに取得して内訳の根拠に不安が残っている方は、按分比率を決める前に、その物件の土地と建物がそれぞれいくらなのかを確かめてください。数字を決めてから根拠を探すのではなく、根拠を得てから数字を決める。その順番だけが、後の調査であなたを守ります。

当事務所では、収益物件の適正価値を客観的に把握したい投資家の方に、顧問鑑定士プラン(月額5,500円・税込)で按分方針の壁打ちを承っているほか、按分の根拠としてお使いいただける鑑定評価書・価格等調査報告書のお見積りを差し上げています。物件の概要と取得時期をお聞かせください。なお具体的な税額の試算や申告の判断は税理士の領域ですので、必要に応じて専門家のご紹介も可能です。

#中級者向け#税務・相続#減価償却

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吉田 健人

不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士。 自らアパートを保有・経営する現役投資家。

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