築古アパートの融資は何年組めるのか。木造の耐用年数超えが収益価格と出口に与える影響を鑑定士が数値で整理する

築古アパートに融資を申し込むと、多くの方が同じ壁に当たります。表面利回りは10%を超えているのに、金融機関から提示された融資期間は10年。これでは毎月の返済で家賃がほとんど消えてしまう。木造の法定耐用年数22年を超えた物件は、そもそも価格の付け方が間違っているのではないか、という不安もあるでしょう。
結論を先に申し上げます。築古アパートの価格と融資を左右するのは、建物があと何年、家賃を生み続けられるかという「残存年数」です。利回りの高さは、その年数が短いことの裏返しにすぎない場合があります。表面利回りを永続的に続く前提で割り戻した価格は、残存年数が短い物件ほど実力より高く見えます。
本コラムでは、私たち鑑定士が築古物件の収益価格をどう組み立てるのか、融資期間が手取りにどう効くのか、そして出口で買い手が限られるという論点までを、想定されるケースの数値で整理します。特定の物件の購入を推奨するものではありません。
築古アパートの融資期間は何で決まるのか
法定耐用年数は税法の物差し
木造の22年、重量鉄骨造の34年、鉄筋コンクリート造の47年という数字は、減価償却のために定められた法定耐用年数(「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表第一)です。建物が物理的に使えなくなる年数ではありません。築30年を超えても、手入れ次第で満室稼働している木造アパートは珍しくありません。
金融機関は「残り何年」で期間を切る
それでも多くの金融機関は、融資期間を「法定耐用年数-築年数」を基本に決めています。木造で築22年を超えると、この式では残りがゼロになります。ただし実務の幅は広く、「40年-築年数」のような独自の算式を使う先や、建物診断をもとに算定した経済的耐用年数(建物が市場で収益を生み続けられる期間)で期間を決める先もあります。
つまり築古アパートの融資は、物件そのものより「その金融機関が建物の残りを何年と見るか」で決まります。積算評価が伸びない構造そのものは積算価格が出ない物件は本当に買えないのかで解説しました。
木造の耐用年数超えは、価格にどう反映されるのか
鑑定評価は経済的残存耐用年数を重視する
不動産鑑定評価基準は、原価法の減価修正において、耐用年数に基づく方法と観察減価法を併用し、耐用年数は経済的残存耐用年数に重点を置いて判断すべきとしています。法定耐用年数を過ぎたから価値がゼロ、という考え方は鑑定評価では採りません。屋根・外壁の修繕履歴、給排水管の状態、間取りの競争力を見て、あと何年、賃貸市場で通用するかを判断します。
収益価格は「有期」で考える
収益物件の価格は、純収益(家賃から運営費用を差し引いた手取り)を還元利回りで割り戻す直接還元法で求めるのが一般的です。ただしこの式は、純収益がおおむね永続する前提に立っています。建物の残りが限られる築古物件では、この前提が崩れます。
そこで考え方として有効なのが、有期還元法(純収益が一定期間だけ得られるとして現在価値に割り戻す方法。インウッド式などがあります)です。建物が収益を生む期間の純収益と、期間の終わりに残る土地の価値(解体費用を差し引いたもの)を、それぞれ現在の価値に引き直して合計します。築古物件の価格は、建物の収益と土地の価値の二階建てで見るべきだと断言します。
築古 収益物件の価格を想定ケースで試算する
抽象化した想定のケースで数字を追います。
売出価格6,000万円、満室想定の年間賃料600万円(表面利回り10%)、純収益420万円の築30年木造アパート。土地の更地価格は3,000万円、解体費用を300万円と置きます。割引率は6%とし、説明を簡単にするため純収益は期間中一定とします。
| 建物の残存年数 | 建物収益の現在価値 | 土地(解体後)の現在価値 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 10年 | 3,091万円 | 1,508万円 | 4,599万円 |
| 15年 | 4,079万円 | 1,127万円 | 5,206万円 |
| 20年 | 4,817万円 | 842万円 | 5,659万円 |
一方、純収益420万円を還元利回り7%で永続的に割り戻すと6,000万円となり、売出価格とちょうど一致します。売出価格は「この家賃が永久に続く」前提の数字だということです。建物の残りを15年と見るなら、800万円近くが残存年数の短さを織り込んでいない部分になります。
実際には築年が進むほど修繕費が増え、賃料も下がりやすいため、純収益一定の前提はむしろ楽観側です。永続還元と有期還元の違いは直接還元法とDCF法は何が違うのかもあわせてご覧ください。ここでの数値はすべて説明のための仮定です。
築古アパートの融資期間が手取りを左右する
返済期間10年・15年・25年を比べる
同じ物件に4,800万円(価格の8割)を金利2.5%・元利均等で借りた場合の年間返済額と、純収益420万円に対する債務返済カバー率(純収益が年間返済額の何倍あるか)を比べます。
| 融資期間 | 年間返済額 | 返済後の手残り | 債務返済カバー率 |
|---|---|---|---|
| 10年 | 約543万円 | 約マイナス123万円 | 0.77倍 |
| 15年 | 約384万円 | 約36万円 | 1.09倍 |
| 25年 | 約258万円 | 約162万円 | 1.63倍 |
表面利回り10%でも、融資期間10年では毎年持ち出しになります。築古アパートの融資で見るべきは金利より期間であり、期間が短いと、融資額を抑えて自己資金を厚くするしかなくなります。
期間を延ばす根拠は「建物があと何年使えるか」
融資期間を延ばす交渉材料になるのは、建物の残りが法定耐用年数の計算より長いことを示す資料です。建物状況調査や劣化診断の結果、大規模修繕の履歴、そして経済的残存耐用年数を明示した鑑定評価書は、その根拠になりえます。ただし最終的な期間は各金融機関の方針で決まり、鑑定評価書が期間を保証するものではありません。
なお、税務上は法定耐用年数を全部経過した中古資産を簡便法で償却でき、木造なら4年(22年×20%)となります(国税庁タックスアンサーNo.5404)。償却が早く終わるぶん、その後の税負担が増える点も含め、適用は税理士にご確認ください。
出口では買い手が限られる
10年後、次の買い手の融資はさらに短い
築30年で買って10年保有すれば、売却時は築40年です。次の買い手が受けられる融資期間はさらに短く、融資を使えない買い手が増えます。買い手が現金比率の高い投資家や、建て替え前提の事業者に絞られると、売却価格は収益から見た価格より、土地価格から解体費用を差し引いた水準に近づいていきます。
出口の利回りを購入時と同じに置くシミュレーションが危ういことは出口の想定利回りは何%で置くべきかで詳しく整理しました。築古物件では、その傾きがいっそう大きくなります。
土地の条件が出口の下限を決める
築古アパートの最終的な下支えは土地です。接道が建築基準法の要件を満たし再建築できるか、面積や形状が戸建用地や新築用地として売れるかで、出口の下限は大きく変わります。再建築不可の土地では、この下支えそのものが崩れます。取得前に確認すべきは、利回りよりも先に土地の条件です。
まとめ
築古アパートの価格と融資は、建物があと何年家賃を生めるかという残存年数で決まります。高い表面利回りは、その年数の短さと引き換えであることを忘れないでください。
要点を振り返ります。
- 法定耐用年数は税法の物差しで、建物が使えなくなる年数ではない
- 築古アパートの融資期間は「法定耐用年数-築年数」が基本だが、金融機関ごとの算式や経済的耐用年数の扱いに幅がある
- 鑑定評価は経済的残存耐用年数を重視し、築古物件の収益価格は建物収益と土地価値の二階建てで考える
- 想定ケースでは、残存15年と見ると永続前提の価格より約800万円低くなった
- 融資期間10年と25年では手残りが年間約285万円違い、表面10%でも持ち出しになりうる
- 出口では買い手の融資がさらに短くなるため、再建築の可否など土地の条件が下限を決める
高利回りの築古アパートを検討中で、提示された融資期間と売出価格が見合うのか判断しかねている投資家の方。建物の残存年数と土地の条件を分けて見ることで、指値の根拠にも、金融機関への説明にも使える数字になります。
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