不動産の節税はどこで否認されるのか。建物比率・同族間の移転・相続直前の取得で問われる価格の根拠を鑑定士が整理する

不動産の節税策が税務調査で否認されるのは、多くの場合「その価格は何を根拠に決めたのか」に答えられないときです。建物比率を高くした取得価額の按分、資産管理会社への低い価格での移転、同族管理会社へ支払う管理料、相続直前に借入れで買った物件の評価。どれも制度上は認められた方法ですが、数字の裏づけが弱いと、税務署はより客観的な価格に置き換えて税額を計算し直します。
「節税のつもりが、数年後に追徴課税になった」という相談の多くは、手法そのものではなく、価格の決め方に原因があります。逆に言えば、価格の根拠を最初に用意しておけば、同じ手法でも説明できる節税になります。
本コラムでは、不動産所得や資産の移転で否認が起きやすい局面を4つに類型化し、それぞれで税務署がどの価格と比べてくるのかを、私たち鑑定士が整理します。なお本コラムは特定の節税策を勧めるものではありません。個別の申告判断は、必ず税理士にご確認ください。
不動産の節税が否認される共通の構図
否認は「手法」より「価格」に向けられる
減価償却、法人への移転、管理会社の活用、相続対策としての取得。いずれも法令や通達の範囲内で行われる限り、否認の対象ではありません。問題になるのは、その手法の中で使った金額が、第三者間であれば成立しない水準になっているときです。
税務の世界では、この「第三者間なら成立する価格」を時価と呼び、所得税法・法人税法・相続税法のいずれも、最終的には時価との距離で判断します。節税の効果が大きい数字ほど時価から離れやすく、そこが調査で問われます。
4つの局面と比べられる価格
| 局面 | 節税につながる数字 | 税務署が比べる価格 |
|---|---|---|
| 取得時の土地建物按分 | 建物比率を高くする | 固定資産税評価額の比、適正な鑑定評価 |
| 法人・親族への移転 | 譲渡価格を低くする | 譲渡時の時価 |
| 同族管理会社への管理料 | 管理料率を高くする | 同業者の管理料率 |
| 相続直前の取得 | 路線価等で評価する | 鑑定評価額などの時価 |
建物比率が高いと何がリスクか
減価償却費の否認は過去にさかのぼる
建物部分だけが減価償却できるため、総額が同じでも建物比率を高くすれば毎年の経費は増えます。しかし比率に合理性がないと判断されると、固定資産税評価額の比などで建物価格を引き直され、過去の申告年分の減価償却費がまとめて否認されます。延滞税や過少申告加算税も加わるため、影響は1年分の差額にとどまりません。
契約書に書いた内訳でも守られるとは限らない
売買契約書に土地と建物の内訳を書いても、売主が消費税に無関心で買主の希望どおりの数字になっている場合など、交渉の裏づけを欠いた内訳は否認されることがあります。一方、東京地方裁判所令和4年6月7日判決は、個別事情を考慮した適正な鑑定に基づく比率であれば、固定資産税評価額の比よりも合理的になりうると判示しました。按分方式の比較と数値例は土地と建物の按分で減価償却費はどれだけ変わるのかで詳しく扱っています。
法人・親族への移転価格が否認される局面
時価の2分の1が一つの線になる
個人が所有する物件を自分の資産管理会社へ移すとき、譲渡価格を低くすれば個人の譲渡所得は小さくなります。しかし所得税法第59条第1項第2号と所得税法施行令第169条により、法人に対して時価の2分の1未満の価額で譲渡した場合は、時価で譲渡したものとみなして課税されます。買主である法人の側でも、時価との差額が受贈益(無償で受けた経済的利益)として益金に算入されうる点に注意が必要です(法人税法第22条第2項)。
想定されるケース:時価8,000万円の1棟を資産管理会社へ移す
抽象化した想定のケースです。時価8,000万円と評価される1棟アパートを、所有者が全株式を持つ資産管理会社へ譲渡するとします。
| 譲渡価格 | 時価に対する割合 | 個人(売主)側 | 法人(買主)側 |
|---|---|---|---|
| 3,600万円 | 45% | 時価8,000万円で譲渡したとみなされる | 差額4,400万円が受贈益になりうる |
| 4,800万円 | 60% | 原則は対価で計算。ただし同族会社の行為計算否認の余地あり | 差額3,200万円が受贈益になりうる |
| 8,000万円 | 100% | 対価どおりに計算 | 受贈益は生じない |
時価の2分の1以上であっても、同族会社との取引で税負担を不当に減少させると認められれば、所得税法第157条(同族会社等の行為計算の否認)が適用される余地が残ります。つまり「半額以上なら安全」ではなく、出発点となる時価そのものを示せるかどうかが勝負です。親から子への売買でも、相続税法第7条により時価との差額が贈与とみなされる構図は同じです。考え方は法人化で物件を資産管理会社に移すとき、売買価格はいくらにすべきかで整理しました。
同族管理会社の管理料が否認される局面
管理料率は同業者と比べられる
家族が役員を務める管理会社に物件の管理を委託し、管理料を支払って所得を分散する方法は広く使われています。ただし管理料が実際の業務に見合わない水準であれば、所得税法第157条により、類似する管理会社の管理料率で計算した額を超える部分が必要経費から外されることがあります。業務の実態が乏しい場合も同様です。
サブリース方式は家賃の水準が問われる
管理会社が物件を一括で借り上げて転貸するサブリース方式(一括借上げ方式)では、管理料ではなく、個人が受け取る賃料が低すぎないかが問われます。この算定方法をめぐっては、大阪地方裁判所が令和6年3月に国の更正処分を一部取り消した判決もあり、比較の物差しは事案ごとに争われています。いずれの方式でも、相場の管理料や賃料の水準を資料で説明できるかどうかが分かれ目になります。
相続直前の取得と不動産投資の税務調査
路線価評価が鑑定評価額に置き換えられた最高裁判決
相続税の財産評価は財産評価基本通達で行うのが原則ですが、同通達の総則6項は、通達どおりの評価が著しく不適当な場合は別の方法で評価できると定めています。最高裁判所令和4年4月19日判決は、被相続人が借入れで取得した2棟の賃貸マンション(取得価額は合計約13.9億円)について、通達評価額約3.7億円での申告を否認し、鑑定評価額約12.7億円で課税した処分を適法としました。通達評価額と時価の乖離が大きく、相続税の負担を軽減する目的が明らかな取得では、評価そのものが時価に置き換えられることを示した判断です。
税務調査で見られるのは数字の出どころ
不動産投資の税務調査では、売買契約書、固定資産税の課税明細書、レントロール、管理委託契約書、借入れの資料が基本的に確認されます。特に、数年で何棟も取得している方や、赤字の不動産所得を給与所得と損益通算している方は、取得価額の按分や経費の中身を尋ねられやすくなります。そのとき、価格を決めた時点の根拠資料が手元にあるかどうかで、説明の通りやすさは大きく変わります。
私たち鑑定士の立場から申し上げると、根拠は取引の前後に作ってこそ意味を持ちます。指摘を受けてから用意した評価書は「後付けの反論材料」と見られやすく、取得時・移転時に価格時点を合わせて作成した評価書は「最初から時価で判断していた証拠」になります。
まとめ
不動産の節税が否認されるのは、手法が違法だからではなく、使った価格に根拠がないからです。どの局面でも、税務署は時価を物差しに数字を引き直します。
要点を振り返ります。
- 否認が起きやすいのは、土地建物の按分、法人・親族への移転、同族管理会社の管理料、相続直前の取得の4局面
- 建物比率は固定資産税評価額の比が標準とされ、離れるなら適正な鑑定などの根拠が必要
- 法人への譲渡は時価の2分の1未満でみなし譲渡(所得税法第59条)、それ以上でも同族会社の行為計算否認の余地がある
- 同族管理会社の管理料やサブリース賃料は、同業者の水準と比べられる
- 最高裁令和4年4月19日判決は、相続直前の取得で通達評価額を鑑定評価額に置き換えた処分を適法とした
- 根拠資料は取引時点で用意しておくほど説明力が高い
資産管理会社への移転や相続対策としての取得を検討している投資家の方、すでに行った節税策の価格の根拠に不安がある方は、実行や申告の前に、その物件の時価を第三者の目で確かめてください。
収益物件の適正価値を客観的に把握したい投資家の方は、顧問鑑定士サービス(月額5,500円)で移転価格や按分方針の壁打ちを承っています。根拠資料として使える鑑定評価書は収益物件で40万円〜(顧問会員価格30万円〜)、水準を知るための価格等調査報告書は15万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。税額の試算や申告の判断は税理士の領域ですので、必要に応じて専門家のご紹介も可能です。
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