株式会社KRE Appraisal
鑑定基礎

表面8%の物件は、鑑定では何%になるのか。表面利回り・NOI利回り・還元利回りの使い分け

·25 min read·著者:吉田 健人
表面8%の物件は、鑑定では何%になるのか。表面利回り・NOI利回り・還元利回りの使い分け

収益物件を探していると、必ず「利回り」という言葉に出会います。販売資料の右上に大きく「利回り8.0%」と書かれていて、その数字で物件を絞り込み、その数字で人と会話する。不動産投資の世界では、利回りが物件の実力を表す共通言語のように扱われています。

ところが、この「利回り」という一語が指しているものは、場面によってまるで違います。広告に出ている利回りと、投資家が保有中に実感する利回りと、私たち鑑定士が価格を求めるときに使う利回りは、同じ物件について計算しても数字が2ポイント以上ずれます。同じ言葉を使いながら別のものを指しているので、話が噛み合わないまま数字だけが独り歩きしていきます。

本コラムでは、この混乱を解きほぐします。表面利回り・NOI利回り・還元利回りの3つを定義から切り分け、1つの想定物件について並べて計算し、どの場面でどれを使うべきかを整理します。販売資料の「8.0%」を見た瞬間に本当の水準へ翻訳できる状態を目指します。

「利回り」には3つある。まず言葉を分ける

表面利回り——満室想定の賃料収入を価格で割った数字

表面利回り(グロス利回り。総収入利回りとも呼びます)は、次の式で求めます。

表面利回り=満室想定の年間賃料収入÷物件価格

販売資料に載っている利回りは、ほぼ例外なくこれです。特徴は2つあります。第一に、分子が「満室想定」であること。現に空室があっても、募集賃料で埋まった前提で計算されます。第二に、運営費用を一切引いていないこと。固定資産税も管理費も修繕費も、この数字には登場しません。

つまり表面利回りは、投資家の手元に残るお金とは何の関係もない数字です。それでも存在する理由は明確で、計算に必要な情報が価格と賃料の2つだけで済むため、物件同士を同じ土俵で機械的に並べられるという点にあります。一次スクリーニングの道具としては優秀です。それ以上の役割を負わせるべきではない、というだけです。

NOI利回り——純収益を価格で割った数字

NOI利回り(実質利回り、ネット利回り)は、分子を純収益に置き換えたものです。

NOI利回り=純収益(NOI=Net Operating Income。有効総収益から運営費用を差し引いた額)÷物件価格

ここで2段階の引き算が入ります。まず満室想定賃料収入から空室損失と貸倒れ損失を引き、その他収入(駐車場料、自動販売機収入など)を足して「有効総収益」を出します。次に、そこから運営費用——建物管理費、水道光熱費、修繕費、固定資産税・都市計画税、損害保険料、入居者募集費用など——を引いて純収益を求めます。

注意すべきは、借入金の返済額と減価償却費はここでは引かないことです。借入条件は買主ごとに違い、減価償却は会計上の計算であって物件自体の収益力ではありません。物件の実力を測る数字ですから、買主の事情は分離します。

還元利回り——鑑定が価格を求めるために使う利回り

還元利回り(キャップレート。Capitalization Rate)は、上の2つとは性質が違います。表面利回りとNOI利回りは「価格が分かっているとき、収益力を測る」ための数字ですが、還元利回りは「純収益が分かっているとき、価格を求める」ための数字です。向きが逆なのです。

収益価格=純収益÷還元利回り

私たち鑑定士が直接還元法(一期間の純収益を還元利回りで割って収益価格を求める手法)で使うのが、この還元利回りです。そして分子に入れる純収益は、投資家が普段使うNOIとも微妙に違います。鑑定評価では、敷金・保証金などの一時金の運用益を加算し、資本的支出(大規模修繕など、建物の価値や耐用年数を延ばす支出。経常的な修繕費とは区別する)を控除した純収益を用いるのが原則です。この差が、後で見るように0.5ポイント近い開きを生みます。

同一物件で3つを並べて計算する

想定されるケースの前提条件

抽象論では感覚がつかめないので、想定されるケースで計算します。地方中核都市に所在するRC造(鉄筋コンクリート造)一棟マンション、築18年、総戸数12戸、募集価格1億2,000万円、満室想定の年間賃料収入960万円という物件です。

まず表面利回りは、960万円÷1億2,000万円=8.00%。販売資料には「利回り8.0%」と印字されます。ここが出発点です。

有効総収益と運営費用を積み上げる

満室想定賃料収入960万円から、空室損失・貸倒れ損失を5%(▲48万円)見込み、駐車場収入など年24万円を加えると、有効総収益は936万円になります。ここから運営費用を引きます。

費用項目年額考え方
建物管理費・PM報酬47万円PM=賃貸管理業務。賃料収入の5%程度
水道光熱費(共用部)18万円実績ベース
修繕費47万円経常的な修繕の年平均
固定資産税・都市計画税65万円課税明細から
損害保険料8万円火災・地震保険
入居者募集費用25万円原状回復費・広告料
合計210万円有効総収益の22.4%

運営費用が有効総収益の22.4%を占めました。これは決して重い水準ではなく、築年が進んだ物件やエレベーター付きの物件では30%に近づくこともあります。

純収益(NOI)=936万円−210万円=726万円。NOI利回りは726万円÷1億2,000万円=6.05%です。表面8.00%の物件が、実質では6.05%。この時点で約2ポイント落ちています。

鑑定の純収益はさらに下がる

ここで鑑定の考え方を重ねます。敷金等の一時金の運用益を3万円加算し、一方で大規模修繕に備える資本的支出を年平均60万円控除します。屋上防水・外壁塗装・給排水管更新といった工事を12戸のRC造で見込めば、年60万円は保守的とは言えない水準です。

鑑定上の純収益=726万円+3万円−60万円=669万円。利回りに換算すると669万円÷1億2,000万円=5.58%になります。

利回りの種類分子となる収益1億2,000万円に対する利回り
表面利回り満室想定賃料収入 960万円8.00%
NOI利回り純収益 726万円6.05%
鑑定の純収益ベース純収益 669万円5.58%

同じ物件、同じ価格、同じ賃料です。にもかかわらず利回りは8.00%から5.58%まで、2.42ポイントの幅で動きました。販売資料の数字と鑑定評価書の数字が違うのは、どちらかが誤っているからではなく、分子の定義が違うからです。ここを取り違えたまま「鑑定は評価が厳しい」と感じてしまう方が少なくありません。

還元利回りを当てると価格になる

最後に向きを逆にします。純収益669万円が分かっているとき、還元利回りをいくらで置くかで収益価格が決まります。

還元利回り収益価格募集価格1億2,000万円との差
5.3%1億2,622万円+622万円
5.8%1億1,534万円▲466万円
6.3%1億619万円▲1,381万円

還元利回りを0.5ポイント動かすだけで、価格は1,000万円前後動きます。だからこそ鑑定評価では、還元利回りを勘で置かず、市場の取引利回りや類似物件のデータから積み上げ、査定の過程を書面に残します。還元利回りと割引率の関係、直接還元法とDCF法の構造の違いについては直接還元法とDCF法は何が違うのか。還元利回りと割引率の関係を数値例で整理するで詳しく整理しています。

市場データを読むときの注意点

公表データは「どの利回り」なのかを必ず確認する

利回りの統計を見るとき、その数字がどの定義なのかを確認しないと、まったく違うものを比べてしまいます。実例で示します。

データ対象と定義数値
健美家「収益物件市場動向」2026年8月期登録された募集中物件の表面利回り・一棟マンション全国平均7.46%
同上・一棟アパート全国平均同(表面利回り)7.89%
日本不動産研究所「不動産投資家調査」第54回機関投資家の期待利回り・賃貸住宅一棟ワンルーム(東京・城南)3.6%
同上・札幌/広島同(純収益ベースの期待利回り)4.9%/5.0%

健美家株式会社が公表した2026年8月期のデータでは、一棟マンションの全国平均利回りは7.46%、一棟アパートは7.89%でした。一方、一般財団法人日本不動産研究所の第54回不動産投資家調査(2026年4月現在)によれば、賃貸住宅一棟の期待利回りは東京・城南のワンルームタイプで3.6%、ファミリータイプで3.7%、地方主要都市のワンルームタイプは札幌4.9%・仙台5.0%・横浜4.2%・大阪4.2%・福岡4.5%・広島5.0%となっています。

この7.89%と3.6%を並べて「地方は儲かる」と結論づけるのは誤りです。前者は募集中物件の表面利回り、後者は機関投資家が純収益ベースで求める期待利回りであり、定義も対象物件も違います。定義の差で2ポイント、対象物件の質と立地の差でさらに数ポイント。二重にずれた数字を比べているのです。

自分の物件が調査対象からどれだけ離れているかを言葉にする

では公表データは使えないのか。そうではありません。使い方は、自分の物件と調査対象との距離を言葉で説明できる状態にすることです。投資家調査の対象は機関投資家が取得する規模・立地の物件であり、個人投資家が取得する築古物件や駅距離のある物件は買主層が薄く、融資期間も短くなります。この違いを「築年で何ポイント、立地で何ポイント」と分解して説明できるなら、その数字は根拠のある想定です。説明できないなら、それは勘です。

表面利回りが高い物件には理由がある

表面利回りが市場平均より明らかに高い物件を見つけたとき、まず疑うべきは分子です。現行賃料が周辺の実勢より高く設定されていないか、募集賃料が実際には決まらない水準になっていないか。オーナーチェンジ物件では、売却前に賃料を引き上げて利回りを演出する動きが起こり得ます。レントロールの読み方はレントロールのどこを疑うべきか。列ごとの見方と、想定賃料の差が1棟価格に効く仕組みに、現行賃料の検証手順はオーナーチェンジ物件の利回りは本当に実力か。現行賃料の盛りを見抜き、収益価格を引き直す3つの検証にまとめました。

分子に疑いがなければ、次はリスクを見ます。高い利回りは、市場がそのリスクに対して要求している対価です。再建築不可、借地権、旧耐震、極端な駅距離——高さの理由を特定できないまま「割安」と判断するのは危険だと断言します。

3つの利回りを場面ごとに使い分ける

一次スクリーニングは表面利回りでよい

物件情報を100件見比べて10件に絞る段階では、表面利回りで十分です。この段階でNOIを積み上げるのは時間の使い方として非効率です。ただし、絞り込みの閾値を「表面8%以上」のような絶対水準で置くのではなく、同じエリア・同じ構造・同じ築年帯の物件と比べて高いか低いかで見てください。

購入判断はNOI利回りで行う

10件から1件を選ぶ段階では、必ず運営費用を積み上げます。課税明細、管理会社の見積、直近の修繕履歴、現況のレントロール。この4点があればNOIは概算できます。表面利回りから運営費用率を引くだけの概算も、初動の目安としては使えますが、最終判断は実額の積み上げで行ってください。

なお、借入返済後の手残り(キャッシュフロー)は、NOIから返済額を引いて別途計算します。NOI利回りと手残りを混同すると、金利や返済期間の違いが物件の実力の違いに見えてしまいます。

価格の根拠づけと第三者への説明は還元利回りで

売主との価格交渉、金融機関への説明、共同出資者への報告、同族間での売買。これらの場面で必要なのは「なぜこの価格なのか」の説明であり、そこで使うのが還元利回りです。純収益と還元利回りという2つの数字に分解して、それぞれの根拠を示す。この形式になっていれば、相手は数字を検証できます。

私たち鑑定士が作成する鑑定評価書や価格等調査報告書は、まさにこの分解と根拠づけを書面化したものです。なお、譲渡所得や減価償却の具体的な取扱いについては税理士に、契約条項の解釈については弁護士にご確認ください。

まとめ

「利回り」という一語が3つの別のものを指していることを知らないまま数字を扱うと、判断の土台が崩れます。表面8.00%の物件が鑑定の純収益ベースでは5.58%になるという事実は、どちらかの数字が間違っているという話ではなく、分子の定義が違うという話です。

要点を振り返ります。

  • 表面利回りは満室想定賃料収入÷価格。運営費用も空室も引いていないため、手元に残るお金とは無関係。一次スクリーニング専用の道具である
  • NOI利回りは純収益÷価格。空室損失・貸倒れ損失を引き、その他収入を加えた有効総収益から運営費用を引く。借入返済額と減価償却費は引かない
  • 還元利回りは「純収益から価格を求める」ための利回りで、向きが逆。鑑定の純収益は一時金運用益を加算し資本的支出を控除するため、投資家のNOIより小さくなる
  • 想定ケースでは、表面8.00%→NOI利回り6.05%→鑑定の純収益ベース5.58%と、同一物件で2.42ポイントの幅が出た
  • 還元利回りを0.5ポイント動かすと収益価格は1,000万円前後動く。だから鑑定は還元利回りの査定過程を書面に残す
  • 公表データは定義を確認して使う。健美家2026年8月期の一棟マンション全国平均7.46%は募集物件の表面利回り、日本不動産研究所第54回(2026年4月現在)の東京・城南ワンルーム3.6%は機関投資家の純収益ベース期待利回りで、直接比較できない
  • 場面ごとに使い分ける。絞り込みは表面利回り、購入判断はNOI利回り、価格の根拠づけと第三者説明は還元利回り

これから収益物件の取得を検討される投資家の方、すでに複数棟を保有して次の一手を考えている方にとって、利回りの定義を分けることは特別な技術ではありません。ただ、分けずに使っている限り、自分が何を見ているのか分からないまま判断を重ねることになります。次に販売資料を開いたとき、印字された利回りが3つのうちどれなのかを確認してください。

収益物件の適正価値を客観的に把握したい投資家の方は、顧問鑑定士サービス(月額5,500円)で、検討中の物件について純収益の積み上げと還元利回りの妥当性を一緒に検証しています。金融機関や共同出資者への説明資料として鑑定評価書・価格等調査報告書が必要な場面のご相談もあわせて承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

#初心者向け#鑑定基礎#利回り

Author

吉田 健人

不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士。 自らアパートを保有・経営する現役投資家。

プロフィール詳細 →

Talk to Me

この内容を、あなたの物件で。

記事の論点を、あなたの保有物件・購入検討物件に当てはめて壁打ちしませんか。月額5,500円の顧問鑑定士プランで、いつでもLINE相談が可能です。

Related Articles

関連記事

直接還元法とDCF法は何が違うのか。還元利回りと割引率の関係を数値例で整理する
鑑定基礎·

直接還元法とDCF法は何が違うのか。還元利回りと割引率の関係を数値例で整理する

収益物件の鑑定評価書に並ぶ直接還元法とDCF法。同じ収益還元法でも前提の置き方が違い、同一物件でも価格は1割以上ずれます。純収益の作り方、還元利回りと割引率の関係、証券化対象不動産でのDCF法適用義務を整理し、想定ケースの数値例で差がどこから生まれるかを鑑定士が解説します。

26 min read読む →
不動産鑑定はいくらかかるのか。鑑定評価書と価格等調査報告書の違いを費用と用途で整理する
鑑定基礎·

不動産鑑定はいくらかかるのか。鑑定評価書と価格等調査報告書の違いを費用と用途で整理する

不動産鑑定士が作る価格の書面には、鑑定評価基準に則った「鑑定評価書」と、価格等調査ガイドラインに基づく「価格等調査報告書」の2種類があります。金融機関・税務・訴訟・自己判断のどの場面にどちらが必要か、費用差がどこから生じるのかを、想定ケースの数字とあわせて鑑定士が整理します。

21 min read読む →
積算価格と収益価格はなぜ食い違うのか。銀行が見る価格と市場が見る価格の使い分け
鑑定基礎·

積算価格と収益価格はなぜ食い違うのか。銀行が見る価格と市場が見る価格の使い分け

収益物件の積算価格と収益価格は、同じ物件でも3割前後ずれることがあります。原価法と収益還元法の構造を分解し、金融機関の積算評価との違い、想定ケースでの数値比較、売買交渉・融資・出口それぞれでどちらを根拠にすべきかを鑑定士が整理します。

20 min read読む →
電話で相談無料相談で申込む