1棟RCの融資が伸びないとき、評価の中身をどう分解するか。差額を評価方法と価格の割高さに切り分ける想定ケースを鑑定士が整理する

1棟RCの融資を打診したところ、金融機関の評価が売買価格に3,000万円以上届かなかった。自己資金を積み増すか、買付を取り下げるか。鉄筋コンクリート造は耐用年数が長く融資が付きやすいと聞いていたのに、なぜ評価が伸びないのか。こうした場面で多くの方が「物件が悪いのか、銀行の計算が厳しいだけなのか」を判断できずに止まってしまいます。
結論を先に申し上げます。評価が伸びない差額は、ほとんどの場合「評価方法による目減り」と「価格そのものの割高さ」が混ざったものです。両者を土地・建物・収益の3方向から分解すれば、どこまでが金融機関の選び方や融資期間で解ける問題で、どこからが価格交渉か見送りでしか解けない問題かが見えてきます。
本コラムでは、私たち鑑定士が抽象化した想定ケースを使い、1棟RCの評価を分解する過程を順に追います。特定の物件・地域・金融機関・ご相談を基にしたものではなく、購入をおすすめするものでもありません。
想定ケース:1棟RCの融資評価が売買価格に届かない
物件と融資打診の前提
以下はすべて説明のために置いた数字です。
- 鉄筋コンクリート造の共同住宅、築30年、延床面積600平方メートル、土地300平方メートル
- 売買価格1億5,000万円、満室想定の年間賃料1,350万円(表面利回り9.0%)
- 前面道路の相続税路線価25万円/平方メートル
金融機関の評価はこう計算されていた
金融機関は、土地を路線価で、建物を内規の再調達単価に法定耐用年数の残存割合を乗じて評価したとします。住宅用の鉄筋コンクリート造の法定耐用年数は47年(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一)ですので、築30年なら残存17年です。
| 項目 | 計算 | 評価額 |
|---|---|---|
| 土地 | 25万円 × 300平方メートル | 7,500万円 |
| 建物 | 20万円 × 600平方メートル × 17/47 | 約4,340万円 |
| 合計 | 土地+建物 | 約1億1,840万円 |
売買価格との差は約3,160万円です。さらに融資期間は残存年数に合わせて17年と提示されました。ここで「物件が割高だ」と結論を出すのはまだ早いのです。
1棟RCの融資評価を土地と建物に分解する
土地:路線価水準による目減り
相続税路線価は、国税庁が地価公示価格等の80%程度を目安に定めています。路線価25万円を0.8で割り戻すと、時価相当は約31.25万円/平方メートル、土地全体で約9,375万円です。路線価で評価した時点で、約1,875万円が差し引かれていることになります。これは物件の良し悪しではなく、計算の出発点から生じる差です。
建物:内規単価と法定残存年数の二重の保守性
売買価格から土地の時価相当を控除すると、市場が建物に付けている値段は約5,625万円です。金融機関の建物評価との差は約1,285万円になります。
原因は2つあります。1つは再調達単価です。国土交通省の建築着工統計調査(令和7年計分)では、鉄筋コンクリート造・共同住宅・貸家の1平方メートルあたり工事費予定額は全国で約35.1万円でした。内規単価がこれより低く置かれていれば、出発点で建物が小さく見積もられます。もう1つは残存年数です。法定耐用年数は税法上の物差しであり、私たち鑑定士は修繕履歴や設備の状態から、あと何年使えるかという経済的残存耐用年数を判断します。
期間17年が返済比率を押し上げる
1棟RCで見落とされやすいのが、評価額より融資期間の影響です。仮に1億円を金利2.5%で借りる場合、元利均等返済の年間返済額は期間30年なら約474万円、17年なら約723万円です。同じ物件・同じ借入額でも、返済の負担は1.5倍になります。評価が伸びないことと、期間が短く返済比率の審査を通らないことは、別々に分解して考える必要があります。
収益物件の評価を収益価格で引き直す
純収益から収益価格を求める
不動産鑑定評価基準は、賃貸用不動産の価格を求める際に収益還元法(将来の純収益を現在の価値に割り戻す手法)を重視します。想定ケースで直接還元法により試算します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 満室想定賃料 | 1,350万円 |
| 空室等損失(5%) | ▲約68万円 |
| 運営費(管理・公租公課・保険・経常修繕など) | ▲約300万円 |
| 資本的支出の積立 | ▲120万円 |
| 純収益 | 約862万円 |
還元利回りを5.8%と置くと、収益価格は約1億4,870万円です。この段階では売買価格1億5,000万円をほぼ説明できているように見えます。
先送りされた修繕が価格を削る
ところが、修繕履歴を確認すると、外壁改修・屋上防水・給排水管更新が築30年まで実施されておらず、数年以内に約2,000万円を要する見込みだったとします。この先送りされた修繕費は買主が負担するものですので、収益価格から控除します。修正後の価格は約1億2,870万円です。
差額3,160万円の正体
| 区分 | 金額 | 意味 |
|---|---|---|
| 評価方法による目減り | 約1,030万円 | 金融機関の評価と収益価格の差 |
| 価格の割高さ | 約2,130万円 | 修繕を織り込んだ収益価格と売買価格の差 |
| 合計 | 約3,160万円 | 売買価格と金融機関評価の差 |
断言します。このケースで「銀行の計算が厳しいだけ」と考えるのは誤りです。差額の3分の2は、修繕の先送りを価格に織り込んでいないことから生じています。一方で約1,030万円は評価方法による目減りであり、物件の実力とは別の要因です。
融資が伸びないときの対策は原因ごとに違う
評価方法が原因の部分
この部分は、金融機関の評価方針によって結論が変わる余地があります。収益性を重視する金融機関への打診、修繕計画を示したうえでの融資期間の相談、レントロールと修繕履歴を整理した説明資料の準備が考えられます。ただし、鑑定評価書を提出すれば金融機関の担保評価が書き換わるという保証はありません。担保評価の仕組みは銀行の評価額が売買価格に届かないのはなぜかで、積算が伸びない原因の切り分けは積算価格が出ない物件は本当に買えないのかで詳しく整理しています。
価格が原因の部分
価格の割高さが原因であれば、金融機関を変えても解決しません。修繕費の見積りを根拠にした価格交渉か、見送りの判断になります。指値の組み立て方は収益物件の指値はどこまで通るのかをご参照ください。自己資金を積み増して買う判断は、割高分を自分で負担することを意味します。
相談の前に揃えたい資料
分解の精度は資料で決まります。販売図面、レントロール、過去の修繕履歴と長期修繕計画、固定資産税の課税明細、金融機関から示された評価や条件の内容を揃えておくと、どこに差があるかを短時間で特定できます。法人での取得や融資条件の税務上の影響については税理士にご確認ください。
まとめ
1棟RCの融資評価が売買価格に届かないとき、その差額は評価方法による目減りと価格の割高さが混ざったものです。分解しないまま判断すると、解ける問題を諦めたり、解けない問題に資金を投じたりすることになります。
要点を振り返ります。
- 金融機関の評価は、土地を路線価水準で、建物を内規単価と法定耐用年数の残存割合で計算するため、市場価格より低く出やすい
- 路線価は地価公示価格等の80%程度が目安であり、土地は出発点で約2割目減りする
- 1棟RCでは評価額だけでなく、残存年数に連動する融資期間が返済比率を大きく左右する
- 収益価格で引き直すと、修繕の先送りなど価格そのものの問題が見えることがある
- 評価方法が原因なら金融機関や期間の相談で、価格が原因なら交渉か見送りで対応する
1棟RCの購入で融資に詰まり、自己資金を積み増すか見送るかで迷っている投資家の方は、判断の前に差額の内訳を一度分解してみてください。
収益物件の適正価値を客観的に把握したい投資家の方は、顧問鑑定士サービス(月額5,500円)で、融資評価と収益価格の差の分解について壁打ちを承っています。金融機関や売主に示す資料が必要な場面では、収益物件の鑑定評価書(40万円〜、顧問会員価格30万円〜)、水準を知るための価格等調査報告書(15万円〜)のお見積りを差し上げます(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。まずはお気軽にご相談ください。
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