共有物分割の価格はどう決めるのか。兄弟で共有する相続アパートを、鑑定評価と代償金で分けた想定ケース

相続で兄弟が共有することになったアパートを、共有物分割でどう分けるか。その中心にあるのは、結局「価格をいくらと見るか」という一点です。一人が物件を引き継ぎ、ほかの兄弟に代償金を払う方法を選んだとたん、払う側は安く、受け取る側は高く見たいという利害の対立が表に出ます。
先に結論を書きます。兄弟間で価格が割れるのは、それぞれが相続税評価額・仲介査定・利回りの逆算といった別々のものさしを持ち出すからです。利害関係のない第三者が収益の実態から価格を示し、その価格で払う代償金を「一括売却した場合の手取り」と並べて見せると、感情の対立は数字の比較に置き換わります。
本コラムでは、兄弟3人で共有するアパートを想定ケースとして、共有物分割の価格が3つに割れてから合意に至るまでの流れを、私たち鑑定士の視点で追います。以下は説明のために抽象化した想定のケースで、特定の物件や市場の見通しを示すものではありません。共有物分割・遺産分割の手続きは弁護士に、税金は税理士にご確認ください。
想定ケースの前提:兄弟3人で共有する相続アパート
物件と共有の状況
父から相続した重量鉄骨造・築18年・10戸のアパートを、長男A・次男B・長女Cが各3分の1ずつ共有しています。遺産分割協議で「ひとまず法定相続分どおりの共有」とし、相続登記も済ませました。借入はなく、1戸あたりの賃料は月6.2万円、満室時の年間賃料は744万円です。
管理や修繕の判断は、近くに住むAが一人で担ってきました。3年ほど経って、BとCから共有の解消を求める声が上がります。
3人の希望
- 長男A:管理を続けてきた物件なので、自分が単独で引き継ぎたい
- 次男B:住宅購入の資金にしたいので、早く現金化したい
- 長女C:どちらでもよいが、兄弟の関係を壊したくない
Aが物件を取得し、BとCの持分の代わりに代償金(物件を取得する人が、ほかの共有者に支払う持分相当の金銭)を払う。方向性はすぐに決まりました。揉めたのは、その金額です。
共有物分割の価格が3つに割れた理由
Aの根拠:相続税評価額4,800万円
Aが持ち出したのは、相続税の申告書に載っていた評価額4,800万円です。土地は貸家建付地(賃貸アパートの敷地として評価を減額した土地)、建物は固定資産税評価額から借家権割合を差し引いて評価されています。この数字なら、BとCに払う代償金は1人1,600万円になります。
ただし相続税評価額は、税額を計算するための評価で、市場で売れる価格を示すものではありません。収益物件では時価との差が特に大きくなります(詳しくは相続した収益物件、相続税評価額と時価はなぜこれほど違うのかで整理しています)。
Bの根拠:仲介会社の査定9,500万円
Bは複数の仲介会社に査定を依頼し、最も高い9,500万円を示しました。表面利回り(年間満室賃料÷価格)は約7.8パーセントです。この数字なら代償金は1人約3,167万円になります。
しかし仲介会社の査定は「売り出してみる価格」の性格が強く、その価格で成約する保証はありません。
1人あたり約1,567万円の開き
AとBの数字では、代償金に1人あたり約1,567万円の差があります。どちらも目的の違う数字を使っているだけで、必要なのは全員が前提を検証できる第三の根拠です。
鑑定評価で価格を決める:収益価格8,000万円の内訳
収益還元法で純収益から価格を求める
3人は連名で、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼しました。賃貸アパートでは、収益還元法(将来の純収益をもとに価格を求める手法)による収益価格が中心になります。想定ケースの計算は次のとおりです。
| 項目 | 金額 | 前提 |
|---|---|---|
| 満室時の年間賃料 | 744万円 | 10戸×月6.2万円 |
| 有効総収入 | 684万円 | 空室等による損失8パーセント控除 |
| 純収益(NOI) | 527万円 | 運営費を有効総収入の約23パーセントと査定 |
| 純収益(NCF) | 480万円 | 大規模修繕の積立相当47万円を控除 |
| 収益価格 | 8,000万円 | 還元利回り6.0パーセント |
NOI(Net Operating Income=運営純収益)は賃料収入から管理費・固定資産税などの運営費を引いた金額、そこから大規模修繕に備える費用を引いたものがNCF(Net Cash Flow=純収益)で、これを還元利回りで割り戻して価格を求めます。Bの9,500万円との差は、満室前提の賃料と、空室・運営費・修繕費の見込みの違いでほぼ説明できます。
積算価格・比準価格で検証する
不動産鑑定評価基準は、原価法・取引事例比較法・収益還元法を併用し、それぞれの価格を調整して鑑定評価額を決めるよう求めています。想定ケースでは、土地と建物の再調達原価から積み上げた積算価格が7,600万円、近隣の取引事例から求めた比準価格も8,000万円前後となり、収益価格を重視して鑑定評価額を8,000万円としました。手法ごとの数字の違いは積算価格と収益価格はなぜ食い違うのかで詳しく解説しています。
代償金は1人あたり約2,667万円
物件全体の価格8,000万円にBとCの持分3分の1を掛けると、代償金は1人あたり約2,667万円、Aが支払う総額は約5,333万円です。共有物分割で一人が全体を取得する場面では、このように全体の価格に持分割合を掛けて代償金を算定する考え方が多く用いられます。持分だけを第三者に売る場合のような大きな減価を差し引かない点が、受け取る側にとっての大事なポイントです。
合意に至った理由:代償金をほかの選択肢と比べる
一括売却・持分売却と並べてみる
Bはそれでも「9,500万円で売れるかもしれない」とこだわりました。そこで、Bの立場から見た受取額を選択肢ごとに並べました。
| 選択肢 | Bの受取額の目安 | 前提 |
|---|---|---|
| Aからの代償金 | 約2,667万円 | 鑑定評価額8,000万円の3分の1 |
| 3人で一括売却 | 約2,576万円 | 8,000万円で成約、仲介手数料約271万円を控除 |
| 業者へ持分だけ売却 | 800万〜1,600万円 | 持分相当額の3〜6割と仮定 |
一括売却の仲介手数料は、上限の速算式(売買価格の3パーセントに6万円を加え、消費税を上乗せ)で計算しました。8,000万円で売れたとしても、Aからの代償金のほうが受取額は多く、早く確定します。9,500万円で売り出せば成約時期は読めず、値下げの判断にも全員の同意が要ります。この表を見て、Bは代償金での合意に応じました。譲渡にかかる税金はここに含めていません。
払う側の支払能力も確かめる
代償金で分ける方法は、取得する側に払う力があって初めて成り立ちます。想定ケースでAは、代償金の大半を借入で賄う計画です。仮に5,300万円を金利2.5パーセント・返済期間20年で借りると、元利均等返済の年間返済額は約337万円です。物件のNCF480万円に対して返済の約1.4倍の余裕があり、空室が多少増えても返済が回る水準と言えます。融資を受けられるかは金融機関の判断で、担保評価が鑑定評価額を下回ることもある点には注意が必要です(銀行の評価額が売買価格に届かないのはなぜか)。
第三者の数字が感情論を止める
Aにとっても、鑑定評価額は「物件の収益に見合う額を払った」と納得できる根拠になりました。3人が同じ資料で前提を確かめた数字だからこそ、合意の後に不満が残りにくいのです。
協議がまとまらないときの共有物分割と価格の扱い
裁判所による共有物分割と価格賠償
協議がまとまらなければ、共有物分割請求の訴えへ進みます。2023年4月施行の改正民法258条2項は、裁判所による分割方法として、物件を分ける現物分割と、一人が取得してほかの共有者に持分の価格を支払う賠償分割を明記しました。改正前も、最高裁平成8年10月31日判決が、特定の共有者に取得させるのが相当で、価格が適正に評価され、取得者に支払能力があり、共有者間の実質的公平を害しない場合に、全面的価格賠償を認めていました。
「価格が適正に評価されていること」と「支払能力」は、想定ケースで3人が確かめた2点そのものです。協議の段階から同じ観点で数字を詰めておけば、裁判所に進んだ場合にも議論の土台がぶれません。
遺産分割前の共有なら代償分割
相続した物件がまだ遺産分割前の共有(遺産共有)であれば、原則として共有物分割ではなく遺産分割の手続きで分けます。一人が取得して代償金を払う方法は、遺産分割では代償分割と呼ばれます。なお民法258条の2により、相続開始から10年を経過すると、遺産共有の持分も一定の場合を除き共有物分割で分けられるようになりました。どの手続きを選ぶかは弁護士にご相談ください。
税金と登記は専門家に確認する
共有物分割で代償金を受け取る場合と、遺産分割の代償分割で受け取る場合とでは、課税の扱いが異なります。取得する側にも登録免許税や不動産取得税がかかる可能性があります。具体的な税額は税理士に、登記の手続きは司法書士にご確認ください。
まとめ
共有物分割の価格で兄弟が揉めるのは、それぞれが目的の違う数字を持ち出すからです。収益の実態から求めた第三者の価格を、一括売却や持分売却の手取りと並べて示せば、合意への道筋は見えてくると断言します。
要点を振り返ります。
- 相続税評価額は税額計算のための評価、仲介査定は売り出し価格の性格が強く、どちらも代償金の根拠としては偏りやすい
- 賃貸アパートの価格は、空室・運営費・修繕費を差し引いた純収益から収益還元法で求めるのが中心になる
- 一人が全体を取得する場面では、全体の価格に持分割合を掛けて代償金を算定する考え方が多く用いられる
- 代償金を一括売却・持分売却の受取額と並べると、受け取る側も合意しやすくなる
- 代償金での分割は、取得する側の支払能力(融資の可否と返済余力)の確認が前提になる
- 協議が不調なら裁判所の共有物分割へ進み、そこでも「適正な価格」と「支払能力」が問われる
相続でアパートやマンションを兄弟姉妹と共有している方、共有物分割や代償金の金額で話し合いが止まっている方は、金額を出し合う前に、全員が検証できる価格の根拠をそろえることから始めてください。
収益物件の適正価値を客観的に把握したい投資家の方は、顧問鑑定士サービス(月額5,500円)で、共有物件の賃料・費用・還元利回りの前提を整理するところからご相談いただけます。共有者全員に示す価格の根拠を書面で残す場合、アパート・マンション1棟などの収益物件の鑑定評価書は40万円〜、金額の目安を知るための価格等調査報告書は15万円〜(いずれも税別)です。詳しくは料金のご案内をご覧ください。お見積りは無料ですので、ぜひ一度ご相談ください。
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